第3回 誰が平壌にサンマを運んだのか
平壌潜入取材の第3回目は、市場に並ぶ品々に注目する。国営商店には売る品がほとんど無いのに、公設市場にはモノが溢れているのはなぜなのか?リ・ジュンのカメラは平壌から遠い東海岸でしか獲れないサンマ、しかも新鮮なものが並んでいるのを捉えた。国営の流通網が麻痺している北朝鮮で、いったい誰が漁をし、どうやって鮮度を落とさずピョンヤンまで運んでくるのだろうか?市場に並ぶサンマの姿は、市場経済のとてつもない進化を物語っていた。
(取材・撮影:リ・ジュン 2007年8月 平壌 船橋市場 02分41秒 )

(C)ASIAPRESS (02分41秒) <動画の転載を禁じます>
金正日政権は「首都平壌は発展する革命の首都」という虚構を作るために、
国から訪問者には、常に見栄えの良いところだけを見せてきた。

リ・ジュンら北朝鮮内部の取材チームは平壌に潜入、知られざる北朝鮮の首都の姿を撮影するのに成功した。300万とも言われる人が暮らす平壌、その裏通りには、商売に励みたくましく生きる民衆の姿があった。

・「冷たい氷水」、アイス菓子を販売する屋台。これは、地域の協同組合が運営するもので個人経営ではない。
・食品売り場の一角では、売り手の女性たちが揃いのユニフォームを着、衛生帽を被っている。胸には、写真つきの身分証。客にしきりに試食を勧める。

・肉売り場では豚肉やアヒル肉が売られている。豚肉はおよそ1キロが3000ウォン=120円ほど。
・魚売り場には、カレイやイカと並んで東海岸でしか獲れないサンマが並んでいる。1キロが2100ウォン=80円ほど。

(平壌の市場にサンマが並ぶ意味)

東西を海に囲まれた北朝鮮は、もともと魚介類は豊富に獲れた。60~70年代には、鰯やタラやがたくさん獲れて、飽きるほど副食に配給されていたという。
それが、80年代に入ると次第に食卓に上らなくなる。90年代に入ると、食糧配給の遅配欠配が恒常化する中で、魚介類の配給など、一般庶民には夢の話しになる。
魚が人の前から姿を消したのは、海から魚いなくなったせいではなく、漁獲できなくなったからである。簡単に言えば経済破綻のせいだ。外貨不足によって燃料の油の輸入、漁船や漁具の製造、輸入、保守が困難になった。動く船は、外貨獲得のために日本向け(鮮魚など高級魚)、中国向け(スルメ、干しタラ)の輸出用の魚介類を獲るのに回された。
サンマの姿は次のようなことを物語っている。
東海岸の生産者(漁民)が獲り、それを流通業者に卸し、腐らないよう冷蔵保管されながら平壌まで運送され、いくつかの卸商を経て、市場で最終消費者に販売されている。そのような生産ー運送ー小売りの流通網が、北朝鮮の中でもできあがっていることを示している。
我々の住む資本主義の社会では当たり前のことであるが、社会主義を標榜した北朝鮮の統制経済では、魚介類の流通も、すべてを国家機関が計画、実行しなければならなかった。さて、では、新しい流通網は、政府が政策として作ったのか?金正日将軍が指導してできたのか? 否である。
民衆は統制のくびきを離れてそこに参加し、獲る者、運ぶ者、売る者が生まれた。それがサイクルとして連なり、流通網ができあがったのだ。市場のパワーである。
平壌の市場に並ぶサンマは、拡大する市場経済が、国家主導の統制経済を飲み込んでしまった姿を映し出さしているのである。
凄まじい市場の拡大・増殖
北朝鮮では2003年4月に、それまで非合法だった市場が合法化された。
平壌をはじめ主要都市では、それまで闇市場扱いであったジャンマダンと呼ばれる市場を、当局が管理する「総合市場」に改変した。「総合市場」はいわば公設市場。平壌では、見栄えにも神経を使って立派な建物を建てて区域ごとに開設した。
国営公設市場である船橋(ソンギョ)市場。船橋区域は平壌市中心部を流れる大同江の東側に位置する。党や政府機関の幹部など、比較的裕福な層が暮らす地域のひとつである。市場に集う人々の服装もよい。食品売り場の様子。氷水やアイス菓子も販売されている。
市場で物を売っている女性たちは単純な販売員ではなく、一人ひとりがスペースを借りて商売している「店主」である。社会主義を標榜する北朝鮮の首都・平壌で、市場経済の営業様式が増殖していることが映像から読み取れる。

平壌・船橋(ソンギョ)区域

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