トラック、ダンプも大切な移動手段。大半は料金を取って「バス」のように運行しているという。02年8月恵山市を中国側から石丸次郎撮影。

◆先軍政治の弊害――幹部や軍の専横
国際社会からの支援食糧や肥料も、一部高給幹部たちの懐を暖めたり、国家による民衆収奪の道具になっているようだ。
「以前は農場ごとに配っていた韓国からの支援の肥料を、金を出して買わされた」(前出Dさん)

「03年は7月頃から韓国や米国からのコメが大量に入って来たが、軍、警察、一級企業所(国家的重要度の高い製鉄所や鉄鉱山、軍需企業など)に配給された。でも、それも代金は払わなければならない。

また、軍隊や一級企業所に入った支援食糧は、幹部たちが市場に横流ししている。もとはただでもらった米だから、幹部たちはボロ儲けだ。ただ、韓国からの米が市場に入って値段が下がったのは確か。一時は白米一キロが300ウォンまで上がっていたのが180ウォンぐらいに下がった」(Cさん)

「とにかくこの1年で、見る見る間に貧富の格差が広がった。たった100ウォン(約14円)がなくてトウモロコシの粥をすすっている人間がいる一方、米ドルを何万ドルも溜め込んでいる高級幹部連中もいる。商売のチャンスのある都市労働者は商売で一息つけたけれど、今は農村が大変なことになっている」C氏はこう言うのだった。

◆「人民生活公債」
極めつけの民衆収奪は、03年5月から発行された「人民生活公債」だ。これは宝くじ機能のついた十年償還無利子の国債である。
「公債を買って金が返ってくるなんて誰も信じていない。でも、職場とか地域に割り当てが来る。それを人数で割った分を幹部たちは買えという。出したくないけれど、『忠誠心が足りない』とか、後でどんな批判を受けるかわからないから、買うしかない。私も2000ウォン分泣く泣く買った。国に金がないので、個人が持っている金を吐き出させようということだろう。溜め込んでいる人間の中には、労働党入党のためだとか、トラブルを帳消しにしてもらおうという魂胆で、何万ウォンも出す人間もいる」(C氏)

03年3月に内閣名で出された公布によると、「人民生活公債をたくさん購入した者は、強盛大国建設のための愛国的行動だと認め、政治的、物質的に高く評価する」とある。これは北朝鮮の人々にとっては、公債を買わない者には「愛国心が足りない」というレッテルを貼るぞ、と読めるのだろう。
ここまで露骨に民衆から金を巻き上げる政策をとらざるを得ないのは、北朝鮮がそれだけ財政事情が逼迫していることの反映であり、民衆ではなく軍隊優先の「先軍政治」を掲げていることの帰結であろう。

だがその結果として、民心はますます金正日将軍、労働党から離れていくことになるだろう。
また、商行為の容認により、北朝鮮の人々は統制経済からの自立・遊離を加速化させていくだろう。
※先軍政治
九十年代後半の大飢饉、経済麻痺の過程で、金正日は経済再生、民生回復よりも、軍備、軍隊優先の政策を採った。軍隊と軍事力を自らの権力の源泉として最優先させるため「先軍政治」「先軍思想」をスローガンとして掲げている。

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