迷走する金正日政権
拉致事件をめぐり噴出した経済制裁論。その選択は正しいと言えるのだろうか。10年以上にわたり朝鮮半島の取材を続けてきた石丸次郎が北朝鮮との向き合い方を語る。(編集部)

昨年5月の小泉首相再訪朝時、会談した金正日総書記の口から出た「(安否不明問題は)白紙に戻して再調査する」という最高指導者の発言は、「8人死亡、 2人は未入国」としたそれまでの北朝鮮の主張が覆る可能性があることを示唆したものだった、しかし、それが最高指導者のお墨付きを得ての再調査だっただけに、昨年11月の日朝実務者協議で北朝鮮側が提出した再調査報告「8人死亡、2人未入国」は、金正日政権としての'最終回答'に限りなく近いと考えるべきなのだろう。

ということは、拉致問題は、真相究明と解決に動く可能性が極めて低くなったということを意味する。ただ、交渉過程で北朝鮮側が「特殊機関が協力的でないため不明な点がある」と何度も語ったと伝えられており、将来的に昨年11月の調査報告が覆える可能性を、わずかだが残したと見ることはできる。つまり「特殊機関が隠していた情報が明らかになった」として修正できる余地が残されたということだ。

それにしても、金正日総書記が自ら認め謝罪した拉致問題なのに、北朝鮮政権はなんと稚拙でビジョンのない対応を続けたことか。日本側を納得させ問題解決に向かえば、国交正常化に向かう道筋をつけられたのに、昨年11月の調査報告も、その場しのぎの対応を続けてきた果ての辻褄あわせの域を出ない。
そもそも、二年前に金正日総書記自らが、それまで否定していた拉致犯罪を認め謝罪した理由と目的は何か?

1.日本からの賠償的性格の巨額資金を欲した
2.対米関係改善の重要な足がかりとして対日関係改善を突破口にしたかったからだ。背景には体制維持への危機感・・・経済難と国際的孤立がある。
対日、米関係改善を目指すために選択した、最高指導者による拉致という破廉恥犯罪、国家犯罪の自白と謝罪は、きわめて高価な代償を払うことにもなった。金正日総書記の権威に大きな傷がつき、政権の正当性、正統性に打撃をもたらした。それまで北朝鮮を支持してきた総連系在日朝鮮人のすさまじいまでの北朝鮮・総連離れはその一例である。
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