(2005年5月 リ・ジュン撮影)

 

「さっさと戦争が起こればいい」
90年代の飢饉の最中から、北朝鮮の民衆の間では、このような過激なことばが頻繁に口に出されるようになった。
それは、戦争を望んでのことというより、出口の見えないままの艱難辛苦の日々が、何か大きな力によって変わってほしい、終わりにしてほしい、という絶望的な気持ちの現れであった。

民衆の食糧事情は幾分改善して、今の北朝鮮は餓死者が出るような状況ではない。しかし、「さっさと戦争が起こればいい」ということばは、相変わらず人々の口に上っているようである。

だが、そのニュアンスは微妙に変わってきている。2006年9月の核実験後の取材から、その変化を感じ取ってもらえれば幸いだ。
以下の会話は咸鏡南道の仲の良い男数人が、食事をしながら核兵器について語った取材の中で出てきた話である。

カンチョル:おい、スンホ。お前、仕事もないのにこれからどうするつもりだ?
スンホ:どうするも何も、のんびりやるよ。これからも兄貴(親しい年長の男性をこう呼ぶ)と、酒でもちびちび飲みながら職場に通うよ。

カンチョル:おい、この度は核実験も成功して国も頼もしくなったんだぞ!それなのにお前は、ずっとその調子でやってくつもりか?
スンホ:もう戦争でもおっ始めてしまえばいいのに。どのみち我が国が勝つんでしょう?

カンチョル:どのみち勝つから戦争しようだと?ハハハハ。
スンホ:あるおばさんが配給所に配給をもらいに行った時の話なんだけど、意外にもなぜか米をくれるというんだ。ところが人があまりにも多くて、そのおばさんは、身動きすら取れなくなってしもうた。それで、こんなことを言ったそうだ。
「ふう、なんでこんなに混雑するんだだ。戦争でもさっさと起こしちまえ!」
それで、そこにいた人たちから攻撃されたんだと。
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