◆ゼロからの選挙戦
5月20日から正式な選挙活動期間がスタートし、6月12日の投票日に向け、4人の候補者の長い戦いが始まった。
イランでは、選挙は常に保守派対改革派の議席の奪い合いである。大統領選挙も例外ではなく、保革両派の争いとなる。今回の選挙では、保守派からはアフマディネジャード大統領とレザーイー候補が、改革派からはムーサヴィー候補とキャッルービー候補が出馬している。保守、改革のいずれの支持者たちも、2者択一を迫られることになる。

町には、少しずつ選挙ポスターが目立ち始めていた。しかし、そのほとんどは改革派のムーサヴィー候補のものばかりだ。
「一番知名度が低いからね。特に若者には。まず顔を知ってもらう必要があるんだろう」
タクシーの運転手が言う。
ムーサヴィー氏は、80年代、イラン・イラク戦争中に外務大臣と首相を務めたが、89年に首相職から退いた後、戦後のラフサンジャーニー政権とハータミー政権で大統領顧問を務めながらも、実質この20年間、政治の表舞台に立つことはなかった。4人の候補者の中では、前回の大統領選に立候補していない唯一の候補でもあり、そのため有権者の大多数を占める若年層にとって、彼の存在は未知に等しい。

今年3月、出馬を表明していたハータミー元大統領が、ムーサヴィー候補の出馬表明を受けて出馬を辞退したことから、改革を求めるハータミー師の支持層を、ムーサヴィー氏がそのまま受け継ぐ形となった。さらに、その経歴から、保守派からの支持も得られる候補と言われている。しかし、選挙に勝つために最も重要なのは、今後、浮動票と若年層の票をいかに取り込めるかだ。ムーサヴィー派は、テヘラン大学の学生たちを中心に、若者への支持を広げようとしていた。
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