中国側から撮影した咸鏡北道の農村。(2009年6月中旬 石丸次郎撮影)

中国側から撮影した咸鏡北道の農村。(2009年6月中旬 石丸次郎撮影)

 

最新朝中国境取材報告 2
混乱広がる北朝鮮で餓死者が発生
【石丸次郎】

一般国民の生活の混乱が続く北朝鮮で、とうとう餓死者が出始めているようだ。
6月中旬、朝中国境に赴いた筆者は、中国に一時的に越境して来ていた北朝鮮人9人にインタビューした。
彼らの証言に加え北朝鮮内部の取材パートナーたちから届いた情報を総合すると、残念ながら南部地域を中心に多くの餓死者、行き倒れになる人が発生しているのは間違いないと思われる。

この4月以降、家を失った流民が鉄道駅舎や市場に集まり、施しを受けることもなく命を落とす人が続出しているという。
いくつか最新の証言を紹介しておきたい。

「黄海道と平安南道で死人がたくさん出ています。収入が無くなった人が最後に家を売って街を彷徨うのです」
(清津市40代男性機械工、Bさん)

「5月に行ってきた咸鏡南道の端川(タンチョン)と黄海道の海州(ヘジュ)、沙里院(サリウォン)は目をそらしたくなるほど悲惨だった。駅前には家を失った人が家族単位で、ずらりとビニールだけを被って寝ている。市場では飢えた子供たちが集まって、食べ物の奪い合いをしていた」
(闇商売で全国を回っている咸鏡北道の20歳男性、Eさん)

Cさん

Cさん

「気候が暖かくなった5月から咸鏡南道の端川駅の周辺は家族コチェビ(ホームレス)が大勢集まって来ている。死人がたくさん出るので、「9.27常務」(ホームレスの収容を担当する組織。2000年頃に多識に改組されたのか「9.27常務」という名前は聞かなくなった。最近になって復活したという)が近くの山に持って行って埋めている」
(咸鏡南道40代女性医師、Cさん)

筆者がショックを受けたのは、自殺者が急増しているという証言が多かったことだ。
「家を売ったなけなしの金で好きなものをたらふく食べ、最後に殺鼠剤を飲んで一家心中したというケースが一杯あります」
(咸鏡南道40代女性医師、Cさん)

Dさん

Dさん

「今年に入って本当に生活が苦しくなった。私の場合去年までは商売で1日3000ウォンほど利益があったけれど、今年は1000ウォンぐらい。『横になって寝ている間に死ねたらどれだけ楽だろう』と言う人が多い。犬や豚よりひどい暮らしだから、私も死んでしまいたいとよく考える」
(清津市23才女性、Dさん)
◎   ◎   ◎
北朝鮮民衆の困窮は今に始まったことではないが、今年の混乱は食糧不足がその原因ではないという点が特徴だ。
取材パートナーからの物価動向の報告によると、6月半ばの白米1キロの価格は地域によって若干の差はあるものの、およそ2500ウォン(約200ウォン)前後で昨年同時期とほぼ同じ。

しかし、朝鮮ウォンの対中国人民元実勢レートは、昨年より下がっているので(08年5月は1元=約450ウォン、09年6月は1元=580ウォン)、実質的には米の価格は値下がりしているといえる。市場に行けば食糧はあるという。
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