『実務資料』黒塗り前『実務資料』の、黒塗り処理される前の「運用上の取り決め」の理由に関する部分。
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では、「当然に必要とされる」のはなぜなのか。その答えは第2章末尾の(注1)に記されている。
「これらの合意事項にあるように裁判権行使の通告期間を比較的短期間に限定する合意がなされたのは、軍隊の構成員等の移動は随時なんの拘束もなく行なわれるべきものであるという本来の性格にかんがみ、構成員等に対する処分を不確定なままにしておくことは、軍行動に支障をきたすものであることが了解されたからである」(『実務資料』p25 )

つまり、米軍人・軍属はいつでも軍の命令に従って移動できるようにしておかなければならず、事件の処理をどうするのかが不確定だと軍の作戦行動に支障をきたすので、短期間に結論を出さなければならない、というわけである。
しかし、米軍人・軍属以外の、一般の犯罪事件においては、一定の期間が過ぎたら捜査も、起訴も、裁判もできなくなってしまうなどという決まりは、時効以外にはない。

まさに米軍の都合が優先される、軍事優先の論理に基づいた「運用上の取り決め」だ。全体的に米軍側に有利になっている日米地位協定の性質が色濃く表れている。
この「当然に必要とされる」理由は、日米地位協定の条文や地位協定についての合意議事録には記されていない。外務省がホームページに日米地位協定の解説として載せている、「日米地位協定各条に関する日米合同委員会合意」の「刑事裁判管轄権に関する事項」にも記されていない。

米兵犯罪の厳正な処理・処罰と、刑事裁判権の行使という主権の根幹にも関わる問題よりも、米軍の都合を優先している取り決めの理由を知られたくない、隠しておきたいからではなかろうか。だから、法務省の「秘文書」である『実務資料』に密かに記していたのではないだろうか。

それは、法務省と外務省が協議したうえで『実務資料』に施した黒塗り処理からも推察できる。
『実務資料』第2章末尾(注1)の上記の部分は、以前、国会図書館で自由に閲覧できたときは、当然そのまま読めた。ところが、黒塗り処理を経て部分的閲覧しかできない複製では、その部分は真っ黒に塗りつぶされている。
つづく(文中敬称略)
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