ミング兄さんの悲鳴
(文) チャン・キルス

こんな世の中で生きるのなら、死んだほうがマシだ 今この瞬間も、北朝鮮では公開銃殺が止むことはありません。強盗、殺人、犯罪の大部分は単純に食べ物を手に入れるために発生します。コメひとすくい、ジャガイモ数個のために人を殺めてしまうことはしょっちゅうです。 ―ハンギル(キルスの兄)

こんな世の中で生きるのなら、死んだほうがマシだ
今この瞬間も、北朝鮮では公開銃殺が止むことはありません。強盗、殺人、犯罪の大部分は単純に食べ物を手に入れるために発生します。コメひとすくい、ジャガイモ数個のために人を殺めてしまうことはしょっちゅうです。 ―ハンギル(キルスの兄)

 

安全員はミング兄さんの手錠を解いた。そしてぼくに問いかけた。
「トンム(同務。注・北朝鮮で一般的な呼びかけ。自分より年下か同年の者に向けて使う)、一人は放して、一人は労働鍛錬所(注・居住地を離れて流浪したり、社会規律違反した者を再教育する短期強制労働キャンプ)に行って3ヶ月、働かせないとダメだな」
それからミング兄さんを連れて出て行った。

彼らはぼくにやわらかい口調で問いかけ始めた。
「中国に行こうとなぜ約束したんだ?」
「どこで会って、どうやってここまで来たんだ?」
ぼくは、それでも、ミング兄さんとは駅前で会って、よく知らない人だと言った。しかし、しばらくすると外から「おうー」と悲鳴が聞こえてきた。ミング兄さんが横の部屋で殴られている音がする。

後にミング兄さんに聞いてみたところ、外に放してやると言ったのに、暗い部屋に閉じ込め、一言話すごとに、15回以上殴られたということだった。
どれほど問いただしても、ぼくが中国に行ったことがないというので、彼らも疲れたのか、部屋の中に入り、タバコを一服吸っているようであった。
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