◎一一月二九日(「貨幣交換」前日)

◆カンさん
カンさんは江界市内の知り合いの華僑を訪ねて行った。慈江道は鴨緑江を挟んで中国と接する。その道庁所在地である江界市には、数百人の華僑が居住して中国と行き来しており、中国元と朝鮮ウォンのヤミ両替をしている人が少なくない。

北朝鮮のウォンは中国に持って行ってもまったく役に立たないので、中国で物を仕入れるためには中国の金を調達しなければならない。前日に借金して調達した資金一〇〇〇万ウォンを中国元に換えるために、華僑を訪ねることにしたのだ。

しかし、この日はどうしたわけか、誰も両替に応じてくれない。仕方なく通常よりも低いレートでの交換を申し出たが、ヤミ両替商たちはみな首を横に振るばかりである。カンさんは訝しく思いながらもこの日は家路に着いた。明日三〇日には中国に出発せねばならない。その道すがら両替するしかない。

◆ケさん
一週間後に迫った中国行きの準備のため恵山市内を訪れた。恵山も中国国境の街である。鴨緑江を挟んだ対岸は吉林省の長白県だ。市内を回るうちに気になる噂を耳にした。明日「貨幣交換」が断行されるというのである。

ケさんはまさかと思い、これをよくある「流言飛語」の類いだと考えて気に留めなかった。九二年に「貨幣交換」が突然行われた後、多くの人が打撃を受けたせいか、これまで何度も「貨幣交換をやるらしい」という噂が立ち上っては消えるということが繰り返されてきたからだ。
(つづく)

両江道の道都である恵山市の経済は、中国との合法非合法の貿易が生命線だ。間を流れる鴨緑江を挟んだ手前側は朝鮮族が多く住む中国吉林省長白県。(2003 年9 月 石丸次郎撮影)

両江道の道都である恵山市の経済は、中国との合法非合法の貿易が生命線だ。間を流れる鴨緑江を挟んだ手前側は朝鮮族が多く住む中国吉林省長白県。(2003 年9 月 石丸次郎撮影)

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