ゴーグルがないと砂嵐で前が見えない。防弾チョッキは軍用防弾ケブラー材に加え、前後にセラミック板も入っていて15キロぐらいある。ひたすら重いが、いつも自前のものを持っていく。一応、こういう戦場記者の安全講習はアジアプレスでやった。(モスル/2010年4月)

イラクは4月とはいえ、すでに夏を思わせる暑さだ。強い日差しが肌に突き刺さる。

軍への同行取材には指令本部から特別の許可を出してもらった。まず告げられたのは、もし攻撃があればできるかぎり守るが、部隊の任務は戦闘であり、記者を守ることを優先させれば味方に負傷者がでる場合もある、ということだった。

だから防弾チョッキとヘルメットは常時着用せよ、と厳しく求められた。

戦場では銃撃で被弾するより、爆弾の破片による死傷率のほうが圧倒的に高い。そういった意味では防弾というより、爆破片を防ぐための防護衣というほうが正しい。

  かつて私は、戦場で防弾チョッキを着た記者というのは「自分だけ助かる特別な防具を身につけた存在」というような、なんだか後ろめたいイメージをもっていた。  そして取材相手に威圧を加えることになるのではないか、とも感じていた。

だからこうした装備はあまり好まなかったのだけど、これまで戦場での取材を重ねてくると、じつはそうではいことを認識させられた。

戦闘現場で自分が負傷して倒れたりすれば、それを救出するために誰かを危険にさらしてしまう。

防弾チョッキで無敵になるわけなんてないけれど、それを着てるか着てないかで、自分だけでなく周囲の人の命も左右するという現実がある。
戦場取材とはそういう極限の現場なのだ。

そして、自分はそこから帰る場所があるけれど、逃げ場もなく、そこで生きていかなければならない人がいるということを改めて思い起こす。
身にまとった防弾チョッキはズシリと重く、痛いほどに身体にくい込んだ。
(つづく
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