北朝鮮の庶民はロボットではない。それを最も如実に表しているのが、ジャンマダンと呼ばれる「市場」の形成と拡大だ。度重なる北朝鮮当局による取締りと統制を跳ね返し、今では庶民の生活に欠かせないものとして、完全に定着した。写真は2010年6月平安南道 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)

北朝鮮の庶民はロボットではない。それを最も如実に表しているのが、ジャンマダンと呼ばれる「市場」の形成と拡大だ。度重なる北朝鮮当局による取締りと統制を跳ね返し、今では庶民の生活に欠かせないものとして、完全に定着した。写真は2010年6月平安南道 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)

 

北朝鮮の民衆は無関心か反発
「金正恩(キム・ジョンウン)とはどんな人?北朝鮮ではどう思われている?」
最近こんな質問をよく受ける。残念ながら、筆者はこの正恩氏について何も知らない。会ったことはもちろんないし、姿を写真や映像で見たのは、先の労働党代表者会の際に公開されたものと、幼年青年時代のものぐらい。書かれた文章を読んだこともない。
これは北朝鮮の一般の民衆にとっても同様である。

ただ、「軍事の天才らしい」「科学に明るくて先端技術の導入の先頭に立っている」などという、後継宣伝を目的とした情報が、当局によって昨年春頃から盛んに流布されてきたので、正恩氏の存在については、誰もが早くから知るようになっていた。
ところが、この正恩氏と後継者問題については、北朝鮮国内での関心は驚くほど低調である。北朝鮮内部の取材パートナーに訊いても、中国に越境してきた人たちと話していても
「正恩が後継しようが自分の知ったことではない」
「誰が次のテガリ(親玉)になっても、独裁は変わらないだろう」
という、投げやりとも諦めとも聞こえる答えが大半である。

あるいは、「いいかげんにしてくれ」という反発。
無関心の理由は、あまりに長く続いてきた生活苦だ。その日その日を生きていくのに精一杯で、政治のこと、後継者のことを考える余裕なんてないというのである。

一方で、金総書記の健康悪化が、「激痩せ映像」が公開されて以来周知のこととなり、金正日時代が終焉に向かいつつあることは誰もが感じている。
北朝鮮社会で、社会変化への期待が大きく膨らんでいるのを、取材していて痛感する。

金日成主席が死去して以来の、金正日時代の16年間に対する失望が、いかに大きいかということの裏返しでもある。
同じ社会主義を標榜する中国やベトナムが、国を開いて自由に経済活動ができるようになって目覚しい発展を遂げ、民衆の暮らしも一躍豊かになったということを、北朝鮮の人は皆知っている。

そして、1994年7月に金日成主席が死んだ日から、北朝鮮も改革開放に踏み切る日が来るだろうと、人々は待ちに待って来たのである。
ところが、金正日政権は改革開放に向かうどころか、さらに閉鎖性を強め、人民生活を悪化させてしまった。
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