貸本屋の店先でラジオに耳を傾ける市民。ラングーン(ヤンゴン)市内 2010年11月 撮影 宇田有三

 

選挙を直前に控え、ビルマ(ミャンマー)国内のインターネットに規制がかかるようになった。ラングーン(ヤンゴン)では、朝~午後までほとんど国外とのやりとりができなくなる状況が続く。
そんな厳しい合間をぬって、ビルマの総選挙がどのように報道されているか、インターネットで外国メディアのニュースサイトをのぞいた。いかにも緊張した市内の様子を伝える記事を目にしたが、記者が現地を取材して直接見聞きしたことではなく、地元スタッフらから電話などで伝えてきた情報を記事にしたようだ。

街角には軍服の兵士がところどころに立つ姿は見かけられるが、表立って緊迫した空気を感じることはない。この数週間、市内を動き回って感じるのは、むしろ、人びとはいつも通りの落ち着いた生活を送っているということだ。
ラングーン(ヤンゴン)市内の北、庶民の暮らす住宅街と市場周辺を歩いた。喫茶店では時間をもてあました男たちの多くが海賊版のDVD映画に見入っていた。ラジオを片手に真剣な顔つきで何かのビルマ語放送に聴き入る男性に声をかけた。

Q:「何を聞いていますか。国営放送ですか?」
A:「それはない。私たちが聴くのは、RFA(ラジオ・フリー・アジア)かVOA(ボイス・オブ・アメリカ)かBBCですよ」

Q:「政府は、それらの放送はウソばかりと宣伝していますが...」
A:「だから、聴くんです。それらのほうが正しいのですから」

ビルマ(ミャンマー)軍政の支配する国営メディア、例えばMRTV-4(ミャンマーTV4)や国営紙では毎日、「これら外国の流す放送は、人びとに憎しみを植えつけ、怒りを生み出す。こんなトラブルを起こす人殺しの放送に惑わされることのないように」と宣伝する。
ビルマの軍部が1962年にクーデターで政権を握ってから50年近く、人びとは軍政が主張する反対の事柄に真実を見いだすようになっている。軍政当局もこうした国民意識は把握しているようだ。
それだからこそ、「選挙当日には投票に行こう」という呼びかけがかえって裏目に出ないか、軍政にとっては、それがひとつの懸念となっているかもしれない。
(ラングーン 宇田有三)

★新着記事