10月は米国に行っていた。
筆者は「北朝鮮内部からの通信・リムジンガン」という雑誌の編集・発行人を務めているが、その英語版が完成したので、そのお披露目のためにいくつかの催しを企画し渡米したのだ。

米国でも、思っていたよりずっと北朝鮮問題への関心は高い。とりわけ金正恩(キム・ジョンウン)による世襲後継の動きが公式化してからは、この国の行く末にメディアの興味は尽きないようだ。
さて、その姿を世界に現せて一躍時の人になった金正恩氏。9月末に開かれた労働党代表者会で初お目見えした後、10月10日の党創建記念式典でも「お立ち台」に立った姿が世界に伝えられた。

その様子を見て、筆者は哀れみを感じずにいられなかった。
国際的孤立と失墜した国家の信用、ボロボロの経済・・・。破綻国家、無頼国家との烙印をおされた今の北朝鮮の無残は、彼には何の責任もない。いわば、先代、先々代が作った負債である。

それを、これから一身に、そして一生背負わせされることが宣告されたわけである。いずれ正恩氏は負債の重さに耐えられなくなって立っていられなくなるだろう。
今後、独裁者として、悪罵を浴び歴史に名を刻むことを、若き世襲後継者は運命付けられてしまった。彼の将来はあまりにも哀れである。

最大の脅威は経済難
さて、その北朝鮮は今後どこに向かうのだろうか?先の党代表者会で、中央委員会や中央軍事委員会、政治局などに名が現れた面々は、金正日時代から金正恩時代をつなぐ「過渡期政権」の核心メンバーたちだと見てよい。
健康状態の悪い金総書記が「政事」をできる時間がどれだけ残されているかは天のみぞ知る。それは、明日で終わりかもしれないし、10年後かもしれない。「過渡期政権」は正恩氏がトップに座る準備ができるまで 「ポスト金正日時代」を担うことが役割だ。

核心メンバーのリストを眺めると、そこから今までと異なる新しい政策が出てくるとは考えにくい。むしろ非常に保守的な体制になる可能性が高い。
核心メンバーのほとんどは、以前から金総書記の取り巻きとして知られた人物たちばかりだし、それどころか、実妹の金敬姫(キム・ギョンヒ)やその夫の張成沢(チャン・ソンテク)が中枢に入るという、まるで「金一族支配を今後も貫徹するため」の、恥も外聞も捨てたような人事だからだ。

保守的どころか、防御的な布陣であるという印象を筆者は強く持った。
しかし、防御に専念するだけでは、現体制は生き延びていくことが困難な状態に陥っている。改革開放を拒否した「北朝鮮式社会主義」のやり方では、国家運営費用の捻出すら難しくなっている。

人民軍兵士には栄養失調が蔓延し、平壌市民にすら食糧配給がまともに出せていない。莫大な対外債務、ほとんど廃墟と化した国営工場郡を抱えつつ、統制の困難な新興の市場経済と対峙しているのが現実だ。
「ポスト金正日体制」にとって最大の脅威であり不安定要因は、破綻状態の経済。建て直しを図れない限り、体制の危機はどんどん深まる、というのが筆者の見立てである。
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