ロルパ郡タバン村。中央の丘の上に見える集落がタバン村トゥーロガウン。手前がタバン川。(2006年3月 撮影 小倉清子)

ロルパ郡タバン村。中央の丘の上に見える集落がタバン村トゥーロガウン。手前がタバン川。(2006年3月 撮影 小倉清子)

 

川からの高さが100メートルはありそうな幅の狭い崖道を2時間ほど歩くと、やがて道は川原になった。ごろごろとした石がころがる歩きづらい道を半時間ほど行くと、石を積み上げた門があった。マオイストが作ったタバン村への入り口、つまりロルパ郡への入り口でもあるチェック・ポストだった。

門を入ると、右手にある小屋から銃を持った若いマガール族のマオイストが出てきて「誰ですか」と訊ねた。私が名前と、党からの許可を得ていることを告げると、彼はサントス・ブラ・マガールからもらった許可証が前もって届けられていると言った。当時、許可なしにこのポストを通ってタバン村に入ることはできなかった。

ポストを通過して、さらに川原の道を前に進むと、左手の平地に家がまばらに建っているのが見えた。ほとんどの家の屋根に赤い旗が立っている。鎌と鋤が交差した共産党の旗だった。

しばらく行くと、マガール族の男女が数人、地面に座ってタバコを吸っていた。全員が、小さなパイプのような筒に葉っぱを詰めて吸っている。聞くと、ジャガイモの種の植え付けに行って帰るところだという。ネパール語の発音がカトマンズの人たちと違ってどこかぎこちなく聞こえるのは、この地域の人たちにとってネパール語は母語ではないからだ。

ロルパ郡の北東部からルクム郡の東部にかけて住むマガール族は、カーム語という独自の言葉を話す。ネパール語を話すのは得意ではないのか、あるいは、余所者に対して警戒心があるのか、私が話しかけると、彼らは言葉少なく愛想のない答えを返してきた。

私の体力も限界に近づいていた。すでに日は山の影に隠れ、薄暗くなりつつあった。ポストを出てからさらに1時間ほど川原の道を歩くと、左手にようやく集落が見えてきた。一度、川まで降りてつり橋を渡り、最後の体力を振り絞って坂を上ると、ようやく目的の地にたどり着いた。
(つづく)


【連載】 ネパール マオイスト・女性ゲリラたちの肖像

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