◇「テゴリ商売人」たちへのインタビュー
報告:金東哲(キム・ドンチョル)
前回は現役兵士の証言を通じ、軍隊で栄養失調が常態化している様子の一端を明らかにした。こうした軍隊内の劣悪な状況は、「先軍政治」を掲げる北朝鮮政府にとってみれば恥であるため、なるべくなら住民に知られないように、兵士たちにはかん口令が出されているようだった。

しかしながら今年に入ってから、軍の食糧不足は広く社会の知るところとなった。政府が一月から、住民に軍糧米の献納を求め始めたからだ。実際に私の住む地域の人民班では「各世帯1キロでもいいので、軍隊に食糧を献納せよ」という通達があった。このような直接的な「徴収」はこれまでに見られなかった光景だ。こうしたことから、私は北朝鮮の軍隊が例年よりも深刻な食糧難に陥っていることを確信し、取材を続けていった。

(編集部注:一月から三月にかけて、北朝鮮各地の取材パートナー数人から、住民が軍糧米を強制的に供出させられているというニュースが編集部に届いていた。例えば両江道の恵山市では、政府は5キロの供出を住民に迫ったという。詳しくはリムジンガン5号の特集を参照されたい)。

「テゴリ商売」をする人たちの自転車の背に積まれた食糧。80キロを超える荷物を積むことも多い。2010年1月 平安北道 撮影:金東哲(キム・ドンチョル。以下の写真も全て同様)

「テゴリ商売」をする人たちの自転車の背に積まれた食糧。80キロを超える荷物を積むことも多い。2010年1月 平安北道 撮影:金東哲(キム・ドンチョル。以下の写真も全て同様)

 

北朝鮮には「テゴリ」と呼ばれる商売の形態がある。農村に出向き、コメやトウモロコシ、果物や野菜などを仕入れ、市場で商売する小売人に卸売りをする。自転車の荷台に、時には数十~100キロ近い荷物をくくりつけ、農村と都市部を行き来する。「テゴリ商売」には商売の元手を持たない貧しい都市住民が多く従事しているのが特徴的だ。こうした人たちが集まる場所があると聞き、取材に出向いた。彼(彼女)らは食糧事情に詳しく、軍糧米の徴収に関しても有益な情報が得られると考えたからだ。

2011年の北朝鮮の冬は寒かった。小さな焚き火で暖を取る、「テゴリ商売」をしている人たち。

2011年の北朝鮮の冬は寒かった。小さな焚き火で暖を取る、「テゴリ商売」をしている人たち。

 

一月末に私が訪ねたのは平安南道の都市部に向かう、とある丘陵の中腹だ。重い荷物を持つ「テゴリ商売」を行う人々が、一息入れようと車座になって談笑していた。傍らには荷物がある(以下、私=金)。

:こんにちは、それはトウモロコシですか?
女性:違うよ、大豆さ

:キロあたりいくらで仕入れたんですか?
女性:1400ウォン

:(別の女性に)それはトウモロコシ?大豆?
女性:トウモロコシよ

:仕入れはキロいくらですか?
女性:800ウォン

:それをいくらで卸すんですか?
女性:850ウォン

コメやトウモロコシを卸す場合、キロあたり数十ウォンの儲けにしかならず、利は薄い。例えばトウモロコシを一日がかりで50キロ運んでも2500ウォン、つまりトウモロコシ3キロを買える程度の収入にしかならないわけだ。「テゴリ商売」が大変だと言われる所以だ。そうこうするうちに、別の人々が軍糧米の徴収について話し始めた。私が特に話題を誘導したわけではない。いかに人々の関心が高いのかが分かるというものだ。
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