◆ 両江道の恵山(ヘサン)市
鴨緑江上流の中国との国境都市ゆえ、これまで「見栄え」のために電気供給は優遇されてきた。
「三月一六日はゼロ秒、三月一九日から数日は珍しくよく電気がよくきていたが、三月二五日はまたゼロ秒。さらに一日において、発電所の故障があって三日連続でまたゼロ秒。真っ暗闇の生活だ。ちなみに一九日から電気が来ていたのは、平壌から『非社グルパ』と呼ばれる取締り組織が恵山に来ていて、韓国ドラマなどの『不純録画物』を見ている家庭を捜索するために、電気を無理して流していたからだ」。
(一一年三月末 恵山市中心部に住む取材協力者チェ・ギョンオク氏の電話報告)

チェ氏によると、「お粥をすするのも明かりのある所ですすりたいもんだ」とか「電気のある暮らしというのは、いつ頃のことだっけ」などと、住民たちは投げやりな冗談を言い合っているという。余裕のある家では電気を、自動車のバッテリーに溜めておいて使うのだそうだ。

◆ その他の地域
「平安南道順川市は炭鉱地区が密集しているため電気事情が良い地域だが、電圧がとても弱く電灯が薄暗くて点いているかわからないほどだ。そのため、炭鉱はどこも採炭量が半分以下に落ち込んでいる」。
(一一年四月のキム・ドンチョル記者の電話報告)

「興南(フンナム)にある『2・8ビナロン連合企業所』を復旧させるとして電力を集中させたため、鉄道の咸南線の運行がストップして混乱。人民軍入隊のために移動する若者たちが足止めを食っている」。
(一〇年五月 両江道の三〇代の女性の電話報告)
*   *   *
北朝鮮の電力難の直接的な原因はエネルギー難と設備の老朽化である。さらに外貨獲得のために石炭を輸出に回さなければならないことが、電力難に拍車をかけている(この点については近日アップ予定記事「衰退する石炭産業の現在」で詳しく述べる)。

北朝鮮は水力発電への依存度が五五%程と高い。冬場は川が凍って水力発電の機能が落ちるので、毎年春になると電力事情は改善されていくのだが、今年はどうだろうか。参考までに韓国統計庁によれば、北朝鮮の年間の推定発電量は次の通りである(推計の根拠はよくわからない。印象としては過大評価しているように思う)。

一九九〇年 二七七(一二一)
二〇〇七年 二三七(一〇三)
二〇〇八年 二五五(一一四)
二〇〇九年 二三五(一一〇)
(単位億キロワット、カッコ内は火力発電量)

※ ちなみに二〇〇九年の韓国の年間発電量は四三三六億キロワット、日本は二〇〇八年が一兆一八〇〇億キロワット、六五年が約二〇〇〇億キロワットであった。(日本の数値は「エネルギー・経済統計要覧」による)
(この項終わり)

〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(1)-1
〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-1
〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-2
〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-3
〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(3)-1

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