海州製錬所の煙突。硫酸の製造や金、亜鉛の製錬を行っていた。現在は稼動が停まっている。(2008年10月 シム・ウィチョン撮影)

海州製錬所の煙突。硫酸の製造や金、亜鉛の製錬を行っていた。現在は稼動が停まっている。(2008年10月 シム・ウィチョン撮影)

 

談:チャン・ユチョルさん
取材:パク・ヨンミン
整理:リ・ジンス

サラム。朝鮮語で「人」のことである。
北朝鮮政府、あるいは金正日総書記がしばしば使用する「人民(インミン)」という無機質で顔の見えない呼び方から連想されるのは、意思も感情も持たない、まるで働きアリのような存在だ。リムジンガンが努めて紹介してきたのは、人格をもった個々の「人」が北朝鮮にも暮らしていることである。連載「北のサラムたちの言葉」では、北朝鮮の「人」がどんな日常を送り、何を考えているのかを、当事者の言葉によって伝えていきたい。

第一回目で紹介するのは、金(きん)商売でひと財産を築いたというチャン・ユチョル(張有哲)さん(男性、仮名)。二〇一一年初頭に中国吉林省に合法的に出国してきた際に、編集部のパク・ヨンミン記者が接触し話を聞かせてもらった。金の取り扱いは、北朝鮮では政権の独占事業になっているのだが、その禁を犯し、厳しい取締りの目をかいくぐって金を集めて売るということを長年やってきた。いわば〝錬金術師〟といえる。

年齢は五〇代前半で、黄海南道海州(ヘジュ)市の出身。以前はある工場企業所に勤めていたが、九〇年代後半以降、勤務先がほとんど稼動しなくなり、配給は途絶え給料も遅配が続くようになった。そのため、賄賂を払って出勤することを辞めて、砂金集めに乗り出したのだった。五年ほどの密売買で財をなしたが、取締りに遭って破産。今は手を引き、細々と商売をして暮らしている。

砂金はどうやって採るのか
パク:砂金は主にどこで採れるのですか?
チャン:黄海南道沿岸の白川(ペチョン)のものが、含有量が高く、いい値で売れるね。それと私のいた海州の河口のところでもよく採れたな。大きな工場から排出された廃棄物が集まる場所があるんだ。

パク:あの辺りの大きい工場で、金属を含む廃棄物を出すところといえば、海州製錬所のことでしょう?
チャン:そう。日本が昔建てた工場で、高い煙突が今でも一本建ってるよ。高さが二〇〇メートルくらいだと言っていたかな。その沈殿池(注1)で砂金を採るんだ。

パク:具体的にはどんな方法で砂金を採るのですか?
チャン:二メートルくらいの板を斜めに渡して、そこに廃棄物の泥を載せた後、上から大きなひしゃくで水をかける。そうすると重い金は下に流れていかず残ることになる。そうして残った滓を水銀と一緒に煮ると、水銀に金が包まれ他の不純物と分かれる。それを薬品を使ってもう一度煮ることで、水銀を飛ばし、金を取り出すんだ。お上が海に捨てる廃棄物から人民が金を集めているというわけさ(笑)。

パク:他にはどこで金を採るんですか?
チャン:甕津(オンジン)郡には日本が植民地時代に採掘し、今は廃坑になっている金鉱山がある。その抗に潜り込んで採っている人たちもいる。

パク:坑では今も金が採れるんですか?
チャン:金もニッケルも出るよ。砂金ではなく金鉱石としてだけどね。金づちとのみで掘って石のかたまりを取り出してくるんだ。それを砕き、さっき説明したように溶かして金を取り出す。

パク:坑に入ること自体は危険ではないのですか?
チャン:危険に決まってるよ。人が死ぬことも多い。多くは垂直坑といって、二~三〇〇メートルの穴になっていて、そこに降りていって掘るのだが、管理なんてされていないので、底には水が溜まっている。落ちたらまず死体は見つからない。転落したり、抗が崩れたりと、事故はいろいろだよ。身軽だからと鉱石を取りに坑に入っていった子どもたちが死ぬ場合もある。みんな生活のためにしかたなくやっている。

パク:事故が起きても政府は何もしてくれませんよね......?
チャン:政府? そんなものどこにあるんだ? それに、これは完全に個人の仕事だからね。
次のページ:解説 北朝鮮の金生産...

★新着記事