平安南道平城市内のバスターミナル。中国の長距離バスと同じく、フロントガラスに行き先を書いた紙が立ててある。(2010年6月 キム・ドンチョル撮影)


2.市場の力が作った長距離バス網[3]

取材 キム・ドンチョル/リ・ジュン/石丸次郎
情報提供 チェ・ギョンオク
監修 リ・サンボン(脱北者)
整理 リ・ジンス

「サービバス」
この「サービ車」が発達したのが長距離バスだ。運営の仕組みは基本的に「サービ車」と同じである。このバスは地域によって呼び方が違うようであるが、本稿では「サービバス」と呼ぶことにしよう。「サービバス」が現れたのは一九九九年頃だと、二〇〇七年に脱北したリ・サンボン氏は語る。

北朝鮮で道境を越えて移動するには「通行証」が必ず必要だ。道中には人の移動を統制する「哨所」と呼ばれる検閲(検問)施設がある。このため、哨所での無用な足止めや、賄賂の要求をはねのけたり、うまくやり過ごすことが「サービバス」を利用する乗客たちにとってとても重要である。もちろん、運営業者にとっても、検問をできるだけ簡単に通過することがより多くの利益をもたらすことになるのは言うまでもない。

「サービバス」は、必然的に権力機関と密接な関係のある組織の仕事になる。付言すると、通行証は正式には「旅行証明書」といい、所属する職場や人民班の班長の承認を経たあと、地方行政府の人民委員会で発行される(国境沿線や平壌への移動の場合にはさらに保衛部の承認が必要になる)。だが、述べて来たように人々が生きるために国中を移動する必要に迫られ、移動人口が急増するにしたがい、国境沿線や平壌を除く地域への通行証は賄賂を使えば比較的簡単に発行されるようになった。
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