「ポスト金正日体制」の最大の脅威は経済難
金総書記の健康悪化が、「激やせ」映像が公開されて以来周知のこととなり、金正日時代が終焉に向かいつつあることを誰もが感じている。それに伴い北朝鮮では、民衆の間に社会変化への期待が大きく膨らんでいることを、取材していて痛感する。それは金日成が死去して以来の、金正日時代の一七年間に対する失望が、いかに大きいかということの裏返しでもある。

同じ社会主義を標榜する中国やベトナムが、国を開いて自由に経済活動ができるようになって目覚しい発展を遂げ、民衆の暮らしも一躍豊かになったということを、北朝鮮の人は皆知っている。

九四年七月に金日成が死んだ日から、北朝鮮も改革開放に踏み切る日が来ることを、人々は待ちに待ってきた。ところが、金正日は改革開放に向かうどころか、さらに閉鎖性を強め、人民生活を極限まで悪化させてしまった。平壌の労働党の幹部から地方の農場員に至るまで、「金正日時代は失敗の一七年」「進歩でなく後退の一七年」というのが、今や北朝鮮社会の一致した評価、コンセンサスになっている。

ポスト金正日時代に向かって動き始めた今、民衆は、変化を望んでいても、金正恩後継を支持しようなどとは考えていないと断言できる。
「ポスト金正日体制」にとって最大の脅威であり不安定要因は、破綻状態の経済だ。改革開放を拒否した「北朝鮮式社会主義」のやり方では、国家運営費用の捻出すら難しくなっている。人民軍兵士には栄養失調が蔓延し、平壌市民にすら食糧配給がまともに出せていない。莫大な対外債務、ほとんど廃墟と化した国営工場群を抱えつつ、統制の困難な新興の市場経済と対峙しているのが現実だ。建て直しを図れない限り、体制の危機はどんどん深まっていくだろう。処方は改革開放しかない、というのが筆者の見立てである。

こうしてみると、金正恩への権力世襲は、正当性の問題がずっと付きまとう上、制度的にも経済的にも困難ばかりが待ち受けているように思える。これが意味するのは、金正恩本人を危険にさらす可能性が高いということだ。

金正日がそれを承知してないとは思わない。それでも、息子への権力移譲を決めたのは、「首領絶対制」に固執した金正日に、他に選択の余地がなかったためだろう。加えて言うなら、金正恩がこのまま後継者になる道を突き進むということは、独裁者として、悪罵を浴び、歴史に名を刻むことが運命付けられるということである。金正恩は茨の道を進もうとしている。
(一部敬称略)
(おわり)

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