2009年8月に金総書記が直洞炭鉱を現地指導した際の写真。(朝鮮通信が配信した写真より引用)

2009年8月に金総書記が直洞炭鉱を現地指導した際の写真。(朝鮮通信が配信した写真より引用)

取材 キム・ドンチョル
監修 リ・サンボン(脱北者)
整理 石丸次郎

8  軍の支配
「チャト」の出現に見られるように、国営石炭産業は市場の力に吸引されるようにして少しずつ形態を変えつつあるが、それとは別に石炭産業の構造を変えたものに軍部の関与がある。

リ・サンボン氏によると、九〇年代末に金正日総書記が「先軍政治」を掲げ始めた頃から、稼働している多くの国営炭鉱で生産された石炭を処分する権限を、軍部が持つようになったという。このような軍関与は他の産業や発電所などにも見られるが、輸出関連産業が多い。

原料や資材、食糧の調達も軍が責任を持つようになった。金総書記のお墨付きのもと、貿易利権を軍部が次々手中に納めたと見ることができるだろう。人民武力部傘下の外貨稼ぎ部署が持つ貿易会社が、八〇年代から魚介類や金などの輸出を手掛けていることはよく知られているが、「先軍時代」に入り、石炭の処分権まで手に入れたわけである。

「順川地区炭鉱の場合、採掘された石炭は基本的に軍部の連中の権限で運び出されて行く。北倉(プクチャン)火力発電所や東平壌(トンピョンヤン)火力発電所に送る分と、中国に輸出する分、国内で処分する分に分かれる。輸出を担当しているのが人民武力部の二五総局という部署の下に作った貿易会社だ。石炭を輸出して得られる利潤で軍の装備品を中国から買っているだけでなく、炭鉱の幹部たちも疲弊する労働者たちをよそに贅沢な暮しをするようになった」
とキム記者は言う。
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