農村から「軍糧米」として供出されたトウモロコシを、道端で乾かす兵士。この頃にも一部、乾燥・脱穀前の穀物が供出されていた。2008年10月 撮影:「リムジンガン」沈義川(シム・ウィチョン)記者 (c)アジアプレス

農村から「軍糧米」として供出されたトウモロコシを、道端で乾かす兵士。この頃にも一部、乾燥・脱穀前の穀物が供出されていた。2008年10月 撮影:「リムジンガン」沈義川(シム・ウィチョン)記者 (c)アジアプレス

 

◆奪い尽くされた農村
こうした従来の供出に加え、二重の供出を求められる構図は、特にここ一、二年、黄海道の食糧事情を悪化させる要因になっていたものと思われる。昨年1月末に黄海南道の農村から中国を訪れた現地住民は、同じように軍による苛烈な軍糧米の取立てを嗚咽と共にこう証言していた。
「秋になると、少しでも食べ物が欲しい農民は収穫物を盗んででも確保します。それを地面に掘った穴や家のなかに隠したりするのですが、徴発のために村に来た軍人たちは、家々を訪ね歩いて、それすらも全部持って行ってしまいます。1月なのに食べ物が何も無いんですよ...」

100万とも300万とも言われる餓死者を出した90年代後半の「苦難の行軍」期にも、穀倉地帯の黄海道は、咸鏡道などと比べると少ない被害で済んだといわれている。その黄海道で餓死者が続出しているという。この10年、咸鏡北道では大規模な食糧危機は報告されていないのとは対照的だ。

つまり、黄海道の農村ではこれまで割り当てられた「軍糧米」や「首都米」をなんとか納めてきたものの、近年の軍糧米を中心とした国家から要求される供出量の増加が重くのしかかり、人々が倒れ始めているのだ。商売に活路を求められる都市住民と違い、現金収入を得る方法を持たない農民たちが、危機的な状況に陥っている。原因は、国家が農村から取れるだけ持っていってしまったからだ。

現在、黄海道地域で起きている「飢饉」を理解する際に重要なのは、農業の不振が食糧危機の直接的な原因ではなく、国家による無計画かつ度を越した収奪が農民を死地に追い込んでいるということに他ならない。筆者が食糧危機発生の理由を「人災」と称する所以である。(つづく)
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