厳しくなる北朝鮮包囲網
北朝鮮政府は〇七年三月に、麻薬拡散防止のための代表的な三つの国際条約を批准した。また、条約批准以前にも関連機関の国内入国を認め、麻薬対策を 協議していたとされる(注1)。これはずっと麻薬密売のターゲットにされてきた中国を筆頭に、国際社会が圧力をかけてきた結果だといえる。

さらに〇九年五 月に強行した第二次核実験により、武器や嗜好品の取引を禁止する国連安保理決議一八七四号が採択され、武器輸出が監視を受けることになったことも(注 2)、麻薬密輸出に打撃を与えたと考えられる。北朝鮮からの荷物は厳しくチェックされるようになった。

さらに米国が独自の制裁として行う船の臨検に同調す る国が多いため、積み荷に隠して密輸する手法も難しくなった。こうして国外でさばき切れなくなった覚醒剤がだぶつき、密売組織は国内に販路を見つける必要 性が出てきたと分析することができる。

賄賂横行で取締りは大甘
政府による覚醒剤の取締りについて、冒頭に紹介した脱北者のミンさんは「捕まっても賄賂を払えばそれまで」と語る。やはりク・グァンホ記者も金で解決できるとして次のように言う。

「誰それが『オルム』を吸って捕まったとか、売人が捕まったという話は耳にするんです。ですが、そういう人たちは皆、金を持っているから、保安員 (警官)に金を握らせて、一、二ヶ月もしたら罪に問われることもなく出て来るんですよ。平壌でも一〇年一二月から約一ヶ月のあいだ、『オルム』の集中取締 りが行われ、たくさんの人が逮捕されました。ですがやはり、しばらくするとまた元のように密売が始まるんです。法律はあるけど、それだけでは取締りは徹底 されません。『オルム』の取締りすらも、保安員たちの金儲けの道具になってしまっています」。

国境都市の恵山では取締りはどうなのだろうか? チェ・ギョンオク氏は次のように述べる。

「取締りに遭って捕まっても、その密売人とグルになっている幹部がすぐに出てきて、もみ消してしまうので、何の問題にもなりません」。

北朝鮮政府の名誉のために言うと、覚醒剤の国内外での流通を、政府がまったく放置しているというわけではない。〇三年八月には麻薬取締り関連法を施 行するなど、厳罰をもって厳しく臨む姿勢を見せたこともある。リ・サンボンさんは、〇五年に会寧市で、密売人の公開処刑を直接見ている。

このように取締りが緩かったり、捕まっても賄賂で解決できるという「ローリスク」商売であることが、覚醒剤を蔓延させる大きな要因になっているのは間違いない。だが一一年になって、取締りには新たな動きが見え初めた。
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