ファディアさんが10年前から暮らす中学校跡地。貧困のため家を借りられない7世帯の帰還避難民が住む。(2013年4月撮影 玉本英子)

 

キルクーク市内北西部にある貧しい住宅街、カディシア地区には、コンクリートブロックで積み上げられただけの粗雑な家が立ち並ぶ。旧フセイン政権下の80年代、多数を占めていたクルド人の人口バランスを変えることを目的としたアラブ化政策が強力に推し進められた。クルド人の一部が見知らぬ土漠地帯に追放され、これに代わって南部からアラブ人が入植した。フセイン政権が崩壊すると、多くのクルド人が故郷への帰還を望み、続々と町に戻りはじめた。

かつて中学校だった建物に暮らす帰還避難民のもとを訪ねた。ここには7世帯が暮らす。教室をコンクリートブロックで仕切り、日中も薄暗く、下水の臭いが漂う。

「こんなに長い避難生活になるとは思ってもみなかった」
5人の子を持つ主婦のファディア・アリさん(45)はいう。
2003年4月、フセイン政権崩壊の知らせを聞いた家族は、強制移住先の北部の街からキルクークへ戻った。だが、以前暮らしていた家はすでになく、家族は中学校の教室に身を寄せた。

クルディスタン地域政府は「人口正常化」と称し、住民の早期帰還を呼びかけた。クルド人を増やし、住民投票を実現させてキルクークをクルディスタン地域に編入させたいという思惑からだ。だが、生活基盤もなく、土地家屋の法的権利も確定していないなかでの強引な帰還奨励政策は、入植したアラブ人とのあいだに軋轢を生む結果となった。さらには、スンニ派アラブ人武装組織の活動を勢いづかせることにもつながった。
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