内戦が長引き、軍事的な攻防ばかりが伝えられるシリアだが、メディアの力で戦闘を止めたいと活動するシリア人たちがいる。
NGOの自由メディア支援協会(ASML)代表のシェムシィ・サティスさん(フランス在住:39歳)は、2年前からシリア国内の独立系市民記者たちへの支援を行なっている。

シリア国内の市民記者組織を支援するASML代表のシェムシィさん(39)。自身もシリア人で、無償で活動している。(フランス・パリ 5月25日 撮影:玉本英子)

 

自身もシリア人。父親は80年代にパリへ亡命した元政治犯だ。シリアに暮らしたことはないが、幼い頃から父親やその仲間たちからアサド政権の人権侵害について聞かされてきた。バイオ研究者となったシェムシィさんだったが、2011年にシリアで市民デモが始まった時、パリでデモに参加したことがきっかけで、フランスに暮らすシリア人の友人たち4人とASMLを立ち上げた。

「とにかく何かしなければ、と思った。最初は市民が携帯電話で撮影したものを、アラブメディアに紹介した」とシェムシィさんは話す。
その結果、アル・ジャジーラやアル・アラビアなどアラブ系の衛星テレビ局で、市民たちが撮影した国内のデモ映像が連日、流されるようになり、現地からの生中継も可能になった。そこでシェムシィさんが分かったのは、衛星テレビでデモの映像が流れる間、シリア政府軍はそのデモ隊を攻撃しないことだった。

「メディアは市民を守れる」
彼は、そう確信したという。
シェムシィさんたちは、国内の市民記者組織である、シリアメディア行動革命チーム(SMART)を支援。SMARTは、シリア国内に10のメディアセンターを地下に設立した。市民記者は全国で2000人に広がるまでになった。
市民記者の多くはメディア専攻の大学生たちだが、なかには医師や一般の労働者もいるという。ASMLは、映像や写真、記事を国外へ送信するための携帯型衛星通信モデムなどのネット接続機器や、小型カメラ300台などを秘かに国内に持ち込んだ。

国外へ避難した元シリアテレビ局のディレクターなどが、ネット電話スカイプを通して、市民記者に撮影技術を教えている。
問題点もある。アラブの衛星テレビ局などで放映されることで、シリア国内の人びとが国内情勢を知るようになった。しかしテレビメディアの多くは戦闘シーンばかりを欲しがるのだという。
「その背景に何があるのか、人のストーリーをきちんと伝えたいのに、なかなか理解してもらえない」とシェムシ
ィさんは嘆く。
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