インド北部のカシミール地方では、分離独立派と治安部隊との戦闘で女性たちにも多くの被害が出ている。写真は戦闘で家族を失い、悲しみにくれる女性たち(2003年スリナガルにて撮影:廣瀬和司)

6月18日、ジャンム・カシミール州のクプワラ地裁は、22年前に発生したクナン・ポシュポラ村集団強姦事件について、再調査するよう現地警察に命じた。
事件が起きたのは、91年2月23日、夜のことだった。北カシミールのクプワラ郡クナン・ポシュポラ村をインド軍第4ラージプート・ライフル銃隊が包囲、分離独立派ゲリラ捜索作戦を始めた。

しかし部隊は男たちを家の外に出し一箇所に集めると、女性たちに襲いかかった。13歳から70歳の村の女性70人以上が強姦されたといわれる。
当時、同州では、インドからの分離・独立を目指した武装闘争が激しさを増していた。

パキスタンとの実効支配線に近い、この村は、分離独立派ゲリラをかくまっていたともいわれ、軍による報復ではないかとの見方もある。

村の女性全員が強姦されるという前代未聞のこの事件は、当時世界的にも大きく報道された。だが、軍は事件を否定し、政府が命じた調査でも「根拠不十分」、もしくは「行為は独立派ゲリラ側によるもの」だとして、事件が審理されることはなかった。

その後、アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体の調査やメディアの取材で事件は何度も取り上げられたが、政府が動くことはなく、裁判などもおこなわれなかった。

7月7日付のインディアンエキスプレス紙の記事によると、当時の最初の調査の責任者で、カシミールの行政長官だったワジャハット・ハビブウッラ氏は「報告の重要な部分が削除されていた」と証言している。

インドの人権団体JKCCSを主宰する弁護士パルヴェーズ・イムローズ氏が、調査を不服とする訴えを長年にわたって裁判所に起こしていたことが、きっかけとなり、今回、クプワラ地裁のJ・A・ギーラニ判事は過去の調査を精査し、調査が不十分だったとして再捜査を地元警察に命じた。判事は警視監以上の警察将校を責任者とする調査チームとし、3か月以内に報告を出すように義務付けた。

しかし今のところ調査は進んでいない。7月3日から16日まで行われることになっていた調査は主席検事が多忙を理由にキャンセルされたままだ。

6月28日にカシミールを訪れたサルマン・クルシード外相は、
「このような事件が我が国で起きたことは恥ずべきこと」と事件の存在と説明責任を認めた上で、病気療養中のネルソン・マンデラ南アフリカ元大統領の闘争と白人との和解の姿勢を引き合いに出して、「戦争は終わった。嫌なことは忘れて、話し合いと交渉をすべき」と、調査に対して、消極的な意見を述べている。
それに対し、JKCCSの人権活動家クラム・パルヴェーズ氏は、「政府が我々に事件の追求を止めさせようと考えているのは明らかだ。しかし、何をしようと我々はくじけないし、真実を突き止める闘いを止めることはできない」と反論している。
【廣瀬 和司】

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