ザリーフ外務大臣のフェイスブック公式ページ。一日2度3度の更新があり、最近では毎回1万を越える「いいね」が寄せられる。ザリーフ外務大臣はアメリカで学位を取得。かつて5年間国連大使としてニューヨークに赴任。アメリカの政界に人脈を持ち、対米関係改善と経済制裁の除去に期待がもたれている。また、これまで国家安全保障最高評議会に委ねられていた欧米との核交渉を外務省に一任する案が浮上している。

イランでこの8月、穏健派のロウハニ大統領が就任したことで、これまで市民生活に加えられていた規制の一部が緩和されたり、撤廃されたりするのではないかとの期待が高まっている。

その一つがインターネットのフィルタリングの緩和であり、中でもフェイスブックなどのSNSがまもなく解禁されるのではないかと噂されている。
現在イランでは、アダルトサイトはもちろんのこと、現体制の意向にそぐわない政治的、民族的、宗教的主張を含むウェブサイトもブロックされている。

フェイスブックやツイッターといったSNSは、2009年の大統領選挙後の騒乱で、市民を扇動することに利用されたとの認識から、現在に至るまでフィルタリングの対象となっている。

しかしながら、すでにスマートフォンが普及し、携帯によるインターネットサービスが一般化したイランでは、SNSは若者にとって必要不可欠なものだ。彼らはフィルター除去サイトを通すなどして、外出先でも自由にSNSにアクセスできる。とはいえ、そうした利用の仕方では、速度や一部の機能の面で不自由が生じることは避けられない。

SNS解禁の噂の発端は、今年8月、ロウハニ新大統領の指名を受け、議会での承認も受けた閣僚の中で、モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣と、エスハーグ・ジャハーンギーリー第一副大統領の二人が、フェイスブックの公式ページを公然と運営していたことにある。

イランではこれまで、フェイスブックがフィルタリングされているにもかかわらず、自分のページを持っている政治家が、保守派にさえ多数存在した。
しかしその多くは、部下や事務所に運営を任せ、自身はそのページとの関与を明らかにしない、或いは否定するといった場合がほとんどだった。イランの最高指導者ハーメネイー師もまた、関係者や熱烈な支持者によって運営されるフェイスブックページを数多く持っている。

一方、ザリーフ外務大臣とジャハーンギーリー副大統領は、誰もがアクセスできる自らの公式ページをフェイスブックに開設し、自分自身か自分の子供によって日々の書き込みや画像のアップロードを行っていると公言している。閣僚級の人物がこのように自らフェイスブックとの関与を明らかにしたのはイランでは初めてのことであり、市民のSNS解禁も間近ではとの憶測が内外に広がっている。

現在、イランの若者たちの多くがフェイスブックのアカウントを持ち、公務員などを除けば、そのほとんどが実名によるものという。すでに政府が取り締まることは不可能に近く、デモの呼びかけさえしなければ、フェイスブックのアカウント名がもとで身に危険が及ぶこともないという。

こうしてイランではほぼ形骸化したと言えるSNSのフィルタリングだが、これが解禁されることは、単に使い勝手が良くなるということ以上に、体制側が市民の小さな要求に目を向けたという象徴的な意味合いを持つことに留意したい。
さらに、ザリーフ外務大臣のフェイスブックページが彼の就任後わずか3日間で5万人近い「いいね」を獲得し、毎回100を越えるコメントが寄せられていることを知れば、他の保守派の政治家までもが、我も我もと市民との交流に乗り出すかもしれない。それはイランの民主化の促すきっかにもなりうるだろう。
【大村一朗】

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