兵庫県尼崎市の旧クボタ工場の隣接地から望む町並み。写真右下の道路を挟んだ向かいがクボタ工場跡地(写真:筆者)

兵庫県尼崎市の旧クボタ工場の隣接地から望む町並み。写真右下の道路を挟んだ向かいがクボタ工場跡地(写真:筆者)


◇8~9割の工事でアスベスト飛散!?

◆機能しなかった「管理使用」

前回に引き続き、アスベストをめぐる3つの問題について報告する。
アスベストをめぐる問題には、(1)アスベストによる健康被害、(2)既存するアスベスト(既存石綿)の飛散の問題、(3)アスベストの新規使用の問題──の3つがあると前回述べ、(1)のアスベストによる健康被害について説明した。今回は残る2つの問題を解説する。

まず(2)の建築物をはじめ、さまざまな場所にすでに使用されたアスベストがなんらかの理由で飛散するという問題だ。これは(1)の健康被害と密接に関係しており、(2)の対策が十分でなければ、(1)のアスベスト被害がより長期にわたって続くことになる。だからこそ、この「既存石綿」対策は、今後発生する被害者を予防するためにきわめて重要である。

ところが、これが厄介なのだ。前回述べたように、日本に輸入された計1000万トンにおよぶアスベストの9割以上が建築材料に使用されたわけだが、実際にアスベストがどこに使用されているかすら現状ではあやふやなのだ。

アスベストの使用を推進してきた旧日本石綿協会(現JATI協会)やその傘下のアスベスト関連企業は80年代以降、「管理して使用すれば問題ない」という「管理使用」を主張し、国もそれを認めてきた。

だが、どの建築物のどの部分にどのようなアスベスト建材が使われたのかという重要情報でさえ自治体に届け出ることはおろか、記録や保管も義務づけられていなかった。業界側の主張した「管理使用」は、建材の裏面にアスベスト含有を示す「a」マークを印刷する程度でしかない。「管理」というには実態がともなっておらず、名前を変えた「野放し」状態だった。

その結果、280万棟といわれる吹き付けアスベストが使用された可能性のある建築物のうち、実際にどの建物のどの場所に使われているかすらわからない。さらに3300万棟に上る一般家屋の半数以上にアスベスト建材が使用されているとみられるが、ほとんどまともに調査されずに解体されているのが現状だ。「管理使用が失敗したことは明白」とNPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(所長:名取雄司医師、以下アスベストセンター)などは指摘する。

アスベストは前述のとおり、髪の毛の5000分の1という細さから、その1本1本を肉眼でとらえることはできない。アスベスト粉じんが舞っているとしても、ほこりは見ることができても、その中のアスベストを視認することは困難だ。アスベストの調査や分析に詳しいNPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏は、天井にアスベストを含有した建材が使われている内装を撤去する解体作業で、バールを使って解体しているところを測定した経験をこう話す。

「かなりきれいな作業で粉じんもそんなに見えなかった。たいしたことないのかなと思っていたら、実際にはアスベスト粉じんが1リットルあたり数百本と舞っていた。まったくわからないものなんです」

また繊維状になった鉱物という特殊性から、放射線を測定するガイガーカウンターのように機械的な測定はできない。分析調査も顕微鏡を使って、人の目で1本1本数えていくため容易ではなく、測定結果もすぐ出ない。有機溶剤のように臭いがするわけでもない。そうした事情もあり、飛散しても把握すらされないことが多い。
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