◆誰しもがホームレスになる時代
JR大阪駅の高架下でホームレスの富松国春さん(当時67歳)が襲われて死亡した事件から1年、その後の大阪駅周辺の状況や、ホームレスの人々の背景について、野宿者支援団体『釜ヶ崎パトロールの会』の代表きんちゃん(通称)に聞いた。(ラジオフォーラム・鈴木祐太)

夜7時過ぎ、扇町公園で炊き出しに列を作る人々(撮影・筆者/2013.10)

夜7時過ぎ、扇町公園で炊き出しに列を作る人々(撮影・筆者/2013.10)

 

◇届きにくい支援
大阪駅から1キロほど離れた扇町公園では、毎週金曜日の夜7時から釜ヶ崎パトロールの会による炊き出しが行われる。薄暗い公園の片隅で20名ほどが列をつくり、炊き出しをもらっては周辺に座り、食べていた。
会の代表・きんちゃんは、15年以上JR大阪駅周辺でホームレス支援を行ってきた。炊き出しの前に扇町公園周辺のホームレスに声をかけるが、「きんちゃんの許可がないと答えられない」とインタビューを拒否されるほど、ホームレスからの信頼は絶大だ。

きんちゃんにこの1年の状況を聞くと、「(暴行事件は)年に数件あるし、鞄ごと持っていくような物盗りも増えている」と教えてくれた。ホームレスの問題だけでなく、社会保障の問題にも言及する。
「この炊き出しに来ている人の中には年金をもらっている人も多い。年金で生活ができないから野宿をしている」
さらに、「暴行を恐れて近郊の都市で生活をしている人も増えている。そうした人たちには、支援の手が届きにくい」と次第に語気を強めながら語ってくれた。

◇かつては大手企業のサラリーマン
大阪でホームレスと聞くと釜ヶ崎を思い浮かべる人も多いだろうが、きんちゃんによれば、JR大阪駅周辺では元々、「ネクタイを締めて働いていたサラリーマン」が多いという。

実際、この周辺でホームレスに会ってみると、服装や髪型もきちんとしていて、一見、ホームレスには見えない人が多い。話をしてみても、ごく普通の人という印象を受ける。ホームレスと自分で言ってくれない限り、見分けるのはほぼ不可能だろう。
中には、誰もが知っている有名企業に勤務していた経験があり、子供も有名企業に勤めている人もいると、きんちゃんはそっと教えてくれた。

◇生活が崩壊する危険性は誰でもある
かつては生活保護をもらった経験もある元ホームレスの男性は、「年金だけでは生活できないから、こうした炊き出しを利用している」と少し恥ずかしそうに打ち明けた。炊き出しに来ているからといって、皆がホームレスというわけではないようだ。一見しただけでは分からないが、彼は足が悪く、障害者手帳も持っている。印刷関係の仕事をしていたが、パソコンの普及で仕事が減り、職を失った。

別のホームレスの男性は、41歳の時に親の介護で仕事を辞めた。60歳を過ぎた現在まで安定収入は得られていない。彼は昔を思い出すように話しながらも、「そんなことは誰にでも起こりうる」と自分のケースが特殊ではないことを強調した。ただ、生活保護に頼ることは考えなかったという。

取材中、50人を超えるホームレスを見た。ボサボサ頭で、空き缶や新聞紙を台車に載せて歩くホームレスもいることはいたが、ほとんどの人が、荷物も鞄が多くて2つ、スラックスにYシャツといったカジュアルな服装で、大阪駅周辺で歩いている人と何ら変わりがなかった。

外見も内面も普通の人と何も変わらない。誰にでも起こりえるような出来事によって、路上生活を余儀なくされている彼らの現状は、はたして不運の一言で片付けられるものなのだろうか。社会にあるべきセーフティネットの存在が問われる。(続く)

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