○金正恩氏の印象
石丸:金正恩氏が公に姿を現した時、詰襟服を着て、祖父の金日成を模倣したヘアスタイルをして出てきました。どんな印象を持ちましたか?なぜ、あの「金日成コスプレ」のような格好でだったのでしょうか?

ハン:(脱きたした後)初めてテレビで金正恩の姿を見たとき、北朝鮮人にしては体格がいいなと思いましたね。父親(金正日)には似ていなかったので、母親に似たのだろうとも思いました。金日成を真似る理由は、自身の指導力が不足しているから、外見だけでも金日成に似せようということなのでしょうが、とても馬鹿げたことだと思っています。

石丸次郎(左)に金正恩氏の印象について話しているチャンさん。写真 南正学

石丸次郎(左)に金正恩氏の印象について話しているチャンさん。写真 南正学

チャン:幼い頃から北朝鮮で教育を受けてきたため、金日成については正直、良いイメージを持っていました。だから韓国に来たばかりの時は、金日成を呼び捨てにしたり、敬語を使わない文章やニュースを見るだけでも気分が悪くなったものです(笑)。

ハンさんの言う通り、正恩は金日成のコピーになろうとしているように見えます。腰に手を当てる姿や、麦わら帽子を被って歩く仕草などは、金日成にそっくりそのままです。逆に考えると、そうしないと民心がついてこない、そんなところまで追い込まれているのではないかとも思えます。

○金正日総書記の死去をどう受け止めたか
石丸:金正日氏は2008年から健康悪化が噂されてきました。特に9月の建国60周年式典に姿を現さなかったことで、かなり深刻な事態であると海外では認識されていました。当時の国内の状況はどうでしたか?

ハン:金正日が病に伏していたという話を知ったのは脱北後のことでした。ただ、(金正日が姿を見せなかった)当時は、様々な噂が飛び交っていました。式典で主席壇(金正日が立つ場所)の前を通過する予定だった物の中から爆発物が発見されたとか、妹の金慶姫(キム・ギョンヒ)が倒れたとかいう話を耳にしましたね。

それからしばらくして、順安飛行場を訪ねた金正日が副官に支えられながら車椅子に乗って視察したという話を聞きました。「体調が相当悪いのだな」と推測してはいました。

チャン:私は当時地方に住んでいたので、そういった噂自体を聞くことはありませんでした。ただ、半身をうまく使えず、握手もままならない、といった話はありましたね。年を取ったんだなと思いましたが、世界でも最高レベルの医療設備を揃えているだろうから、そう簡単には死なないだろうと思っていました。
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