(参考写真)開城工団の北朝鮮の女性労働者。2007年2月 アジアプレス取材班撮影(アジアプレス)

◇情報機関出身の脱北者「5人中3人が監視任務、韓国の影怖れ」
(本誌特約=「デイリーNK」イ・サンリョンヤン、オ・セヒョク記者)
南北朝鮮で共同運営する開城工業団地内に常駐する国家安全保衛部(秘密警察)、人民保安部(警察)、党所属の幹部らが、工団内の北朝鮮側労働者5人のうち3人に、相互監視及び報告を義務付けているという証言が出た。

韓国人の従事者と毎日のように接触する北朝鮮側の労働者が、思想的に変質を遮るために、当局が強力な監視システムを運営しているものと見られる。

黄海北道の保衛部員だったキム・インチョル(仮名)氏は16日、デイリーNKとのインタビューに応じ、
「2004年末の開城工団操業開始当時、黄海南北道の保衛部と保安部、党組織から、指導員と幹部が大挙派遣された。北朝鮮の労働者の動向を監視するためで、彼らは労働者を装って企業に潜り込み、従業員5人のうち3人を情報提供者にして、相互監視報告させていた」
と述べた。

さらにキム氏は
「個別の従業員から思想動向の報告を受けた保衛部要員や党幹部らは、事業場の責任者に報告し、さらに開城工団の総責任者に報告するシステムで、従業員の思想変質を徹底的に防止することが目的だ。北朝鮮の一般社会での監視システムに比べ二重三重に厳しい。開城工団を通した住民の思想変質を懸念している証拠だ。万が一こうした相互監視システムが構築されていなかったら、5万人もの労働者が開城工団で働くことはできなかったはず。現場では互いに交わす会話の内容だけでなく、従業員の気分や表情など一挙手一投足が監視されている」
と語った。

開城工団では、北朝鮮側の労働者が毎日10時間近く韓国企業関係者と接触する。従来の社会監視システムでは労働者の動向を監視把握するのが困難と判断し統制を強めたものと思われる。
キム氏は続けて
「労働者が(不必要に)韓国側の人間と接触したり、韓国関連の敏感な発言をした場合には、厳重な思想検討を実施しなければならない。問題が深刻な場合は教化所(刑務所)に送られることもある」
と指摘する。

しかし、このような監視システムにより、労働者の行動や発言を監視することはできても、見聞きしこと、感じたことまでは統制することはできない。また労働者は互いに監視していることを熟知しているため、問題になるような行動や発言を自制する一方で、韓国への関心を持つことは避けようがない。

これらと関連し、ある北朝鮮経済専門家は次のように指摘する。
「長期間一緒に勤務することで、北側労働者と韓国側従業員が隠れて交際することも少なくない。韓国人との交際が発覚すると、即刻解雇され二度と開城工団に就業できないよう措置がとられる。教化所に送られることもある」。

北朝鮮が4月、開城工団の操業停止とともに強力な思想点検作業を実施し、従業員の一部を「資本主義などの不純な思想に染まった」として解雇。他所の工場や企業所に「成分がよく誠実な人間」のリストを提出するよう指示したとの内部情報を、今月7日にデイリーNKは報道している。
開城工団が操業を再開した先月16日、北側従業員約3万2000人が出勤したが、現在は4万000人余りに増え、以前勤務していた5万3000人の80%以上の水準に回復したと伝えられる。

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