ライザ市内の国内避難民。カチン独立機構(KIO)と国軍との戦闘で約75000人の難民が発生した。KIO支配地の難民キャンプには国連の援助はわずかしか届いていなかった。(撮影:筆者 2012年3月、ライザ)

◆どうなる「全土での停戦宣言」後
首都ネーピードーに少数民族武装勢力全組織の代表が集結し署名する「全土停戦協定」の内容については、まだ正式に公開されていない。今回のライザ・サミットでは、18の少数民族武装勢力の首脳らが出席し、3つの協定案を元に話し合いが行なわれた。

一つは、少数民族武装勢力の連合体である民族連合連邦評議会(UNFC)主導でことし7月にタイで開催された民族会議でまとめられた案。もう一つは、すでに非公式に公表されているもので、民族連携グループ(WGEC)がことし4月に作成した「包括的連邦和平・停戦協定」案だ。

WGECは、ベルギー・ブリュッセルに拠点を置くユーロ・バーマ・オフィス主導でUNFC代表やその他の少数民族武装組織代表や市民団体の代表などがメンバーとなり設立された団体である。

彼らがまとめた協定案は、5月に政府側和平担当のアウンミン大統領府大臣に提出された。もう一つの案である政府案は、このWGEC案を修正したもので、和平プロセス参加者の構成や人数などの点で異なるという。

今回のライザ首脳会議では、11項目の「少数民族武装組織の全土停戦協定に関する共通方針」が決議された。シャン州軍南部(SSA-S)のみ、本部の意向を確認するために署名を留保したが、17の少数民族武装組織が署名した。

内容は正式には公表されていないが、政治協議を必ず行なうという保証がなされることや国軍の連邦軍への再編、軍の文民統制、停戦協定署名後60日以内に「政治協議の枠組み」を策定し、その後60日以内に「政治協議」を開始するという内容が含まれるという。

◆包括的連邦和平・停戦協定案とは
現在公表されている唯一の協定案はWGEC案であるが、「包括的連邦和平・停戦協定案」と題された同案の骨子は、民主主義と連邦制の国家にミャンマーを再編させるロードマップである。全土での停戦協定後に取り組むべき課題が段階的に記されている。

停戦後、まず「政治協議の枠組み」を策定する。そして、最終的に政府・国軍代表、少数民族勢力代表、民主化勢力代表の三者代表各300名で構成される「連邦会議」を開催し、新国家体制の骨組みともいえる「連邦合意」を形成しようとするものだ。その後、選挙を経て、連邦合意内容の実現を進めるという案である。

政府側は2011年8月、テインセイン大統領が和平交渉の呼びかけを行ったものの、そのロードマップは、少数民族武装勢力に対し、武装解除や国境警備隊への再編、組織を政党化し、選挙を経て、議会内から憲法改正を求めさせるものだった。
少数民族側は、政治問題すなわち民族自決権を保証する連邦制の実現が達成できない限り、武装解除に応じるつもりはなく、ミャンマー建国の原点となったパンロン会議の精神に基づいた「連邦会議」を通して、合意を導き、その合意に従って、政府与党と軍が支配する議会で憲法改正をするよう主張してきた。双方が想定する問題解決の道筋は大きく異なっていた。(つづく)【赤津陽治】

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