3年目を迎えるシリア内戦。死者は13万を越え、国民の3割近くが家を追われた。対立の構図は政府軍と反政府組織に加え、イスラム勢力やクルド組織も台頭するなど複雑化。北部ではアルカイダ系組織が、強硬なイスラム主義による支配を拡大させつつある。
1月、玉本英子はトルコ南部でシリア難民を取材するとともに、シリア国内に入り、内戦下の人びとの声を記録した。いまも激しい戦闘が続くアレッポ県北部地域からの渾身の現地報告。

トルコに避難したシリア人たちのなかには、難民キャンプが定員オーバーなどの理由から、都市部に流れる人びとが少なくない。2か月前にアレッポから逃げてきた避難民の家族は路上で生活をしていると話した。【トルコ南東部ディヤルバクルにて 1月:玉本英子撮影】

トルコに避難したシリア人たちのなかには、難民キャンプが定員オーバーなどの理由から、都市部に流れる人びとが少なくない。2か月前にアレッポから逃げてきた避難民の家族は路上で生活をしていると話した。【トルコ南東部ディヤルバクルにて 1月:玉本英子撮影】

 

◆家族を支えるために...家がない子も

シリア内戦ですでに100万をこえる子どもたちが、家族とともに国外に逃れたといわれる。先行きの見えないなか、トルコ国内に点在する難民キャンプ などに暮らしていた子どもたちの中には、生活のため、都市部で働く者が目立ち始めている。多くは、食堂の皿洗いや、ペンキ塗りなどの仕事だ。

トルコ南部、ガジアンテップ市内の食堂で、避難民の少年、ハムザ(15)に出会った。トルコ語が話せない彼は店の隅で、身振り手振りで店員の指示を 受けながら、不慣れな手つきで、黙々と机の上の食器を片付けていた。朝10時から12時間働きづめだという。取材を申し込んだが、「そんなことしたら仕事 をやめさせられる。写真も撮らないで」と薄茶色の瞳を曇らせた。

もう少し話が聞きたかった私は、彼の仕事が終わる夜10時、店の近くで彼を待つことにした。人気のない薄暗い通りに、他の食堂で仕事を終えた少年たちが次々に出てきた。声をかけてみると、全員がシリア難民の少年たちだった。

黒く煤けたジャンバーを身にまとった15歳のアハメッドと、18歳のイブラヒムは、昼は食堂で働き、夜は路地でうずくまりながら寝ているという。5 か月前、アレッポからトルコ国境を越えてキリスに逃れたが、生活は苦しく、家族を支えるため、都市部であるガジアンテップにやって来たと話す。賃金は休み なしで働いて、1週間に90トルコリラ(約4100円)を得る。トルコ人の半分の賃金にも満たない。

閉店時間を1時間過ぎて、疲れた表情をしたハムザが出てきた。今の状況をどう思うか、ひとことだけ訊ねると、「これまで働いた経験もなかったから、すべてが大変。言葉が通じないのもつらい。中学校に戻って勉強したい。ただそれだけです」と答えて、彼はうつむいた。
早く家に帰らないとお母さんが心配するからと、背中を丸めたハムザは暗闇の路地に消えていった。

トルコ社会は苦境にあるシリア人に同情的だが、今のまま内戦が長期化すれば、影響はさまざまなところにおよぶかもしれない。

【トルコ南部・ガジアンテップ 玉本英子】

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