シリア北西部、コバニ(アイン・アル・アラブ)のアマル救急病院には戦闘による負傷者が次々と運ばれてくる。戦闘で負傷した男は銃弾を摘出。イスラム過激組織の民兵で、地元組織とは敵対する関係だが、「たとえ敵であっても治療を行う」と医師は話した。 (シリア北西部 アレッポ県 1月撮影:玉本英子)

シリア北西部、コバニ(アイン・アル・アラブ)のアマル救急病院には戦闘による負傷者が次々と運ばれてくる。戦闘で負傷した男は銃弾を摘出。イスラム過激組織の民兵で、地元組織とは敵対する関係だが、「たとえ敵であっても治療を行う」と医師は話した。 (シリア北西部 アレッポ県 1月撮影:玉本英子)

◆「命を救うのが医師の仕事、敵であっても変わらない」

戦闘が続くアレッポ県北部地域では、医師があいついで国外などに避難し、多くの病院が機能していない。コバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ)にある病院には、各地からの負傷者が次々に運ばれてくる。

町の電力供給がほぼストップしているため、アマル救急病院では、少ない燃料で発電機をまわす。うっすらと点滅する電球のもと、医師や看護師が不眠不休で治療にあたる。薬品管理棚には医薬品がわずかに残るだけだ。

町の周りはイスラム武装組織によって制圧され、検問で医薬品や手術器具が見つかると押収されるという。他の町や外国からの医療支援もなく、すべてが底をつきはじめていた。

「それでもできるかぎりの治療をおこなう」
ハマッド・メシィ医師(45)は、そう話す。

搬送されてくる多くが、銃撃や爆弾の破片による負傷者だ。
自由シリア軍に足を撃たれて運ばれてきた20代の男は、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)の戦闘員だった。コバニを警備するクルド人組織YPGとも戦闘を繰り広げる、いわば「敵兵」である。

手術室に入ると、医師はレントゲン写真で銃弾の位置を確認し、ゆっくりと太ももにメスを入れた。消毒液や麻酔の量も足りないままの摘出手術。男の顔がゆがみ、汗が額から流れ落ちた。

処置は20分ほどで終わった。男はベッドに横たわることもなく、足を引きずりながら部屋から連れ出された。

「敵兵」であっても普通の民兵であれば、手術後に拘禁するようなことはしないのだという。尋問を受けたのち、捕虜となるか、そのまま敵陣に引き渡されることになる。男が戦闘に復帰すれば、銃口は再び町の住民に向けられる。

「命を救うのが医師の仕事。それは敵であっても変わりません。それぞれに大義があって戦っているのでしょうが、国民どうしが殺しあうなんて誰も望ん でなんかいませんでした。どうしてこんなことになってしまったのか。そしてどれほどの命が奪われたのか。悲しく、そして悔しくてなりません」

ハマッド医師は今後も町に残り、医療活動を続けるという。

【シリア北西部・アレッポ県 コバニ(アラブ名アイン・アル・アラブ) 玉本英子】

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