頭と足を負傷し、隣のラッカ県から救急病院にたどりついたアブ・モハメッドさん(写真)はイスラム武装組織から激しい拷問を受けたという。町ではイスラム過激勢力間での戦闘が激化し、毎日人が殺されていると話す。(シリア北西部・アレッポ県アイン・アル・アラブ 1月撮影:玉本英子)

頭と足を負傷し、隣のラッカ県から救急病院にたどりついたアブ・モハメッドさん(写真)はイスラム武装組織から激しい拷問を受けたという。町ではイスラム過激勢力間での戦闘が激化し、毎日人が殺されていると話す。(シリア北西部・アレッポ県アイン・アル・アラブ 1月撮影:玉本英子)

 

◆イスラム武装勢力どうしの戦闘が激化

アマル救急病院は、周辺地域からやってきた戦闘の負傷者など100人を越す人びとであふれかえっていた。

隣のラッカ県から逃げてきたばかりという男性に話をきいた。

頭部と足を負傷したアブ・モハメッドさん(40)は、町を支配するイスラム武装組織、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)に、スパイ容疑で拘束され、殴る蹴るの拷問を受けたと言う。

「ラッカは地獄だ。毎日大勢の人が殺されている。市場でイスラム民兵が、手当たりしだいに買い物客を撃つのも見た」と身を震わせた。

アブ・モハメッドさんのひげは、伸びっぱなしだった。ISISは住民たちに厳しいイスラム法を強制、「ひげを剃るのは教義に反する」と男性の散髪を 禁止、町の理容店すべてを閉鎖させたという。女性は、一人での外出は禁じられ、黒いヒジャーブで顔や体を覆わなければならなくなった。

ISISに対し、他のイスラム勢力や自由シリア軍が反撃を開始した。だがアブ・モハメッドさんによると「町にたくさんの組織が入り込んでいて、戦闘が起きても何と何が戦っているのか分らない」と話す。街角で自動小銃を持つ少年兵の姿も見かけるようになったという。

「信じられますか。アッラーの名の下に、互いが殺しあうようになった。シリアはもう元には戻れません」

アブ・モハメッドさんはそう言って、うなだれた。

アサド政権の退陣や民主化を求めたはずの運動は内戦に至り、誰もが想像すらしなかったシリアになってしまった。戦闘の狭間に取り残された人びとは、国外に脱出するすべを探すか、ひっそりを息を殺してその日の命をつなぐしかない。

【シリア北西部・アレッポ県 アイン・アル・アラブ 玉本英子】

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