今年3月「九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響」(発行:ころから)を出版した加藤直樹さん(46)は、石原元東京都知事の「三国人」発言をきっかけに、関東大 震災の朝鮮人虐殺について関心を持った。10年前、関東大震災80周年の法要に参加した加藤さんは、出席者の多くが、じつは東京大空襲の被害者だったとい うことを知る。「それら空襲の被害者の中には、もしかしたら朝鮮人虐殺の加害者もいたかもしれない」と加藤さんは気づかされる。
(聞き手:アジアプレス・ネットワーク編集部)

「九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響」(発行:ころから)の著者、加藤直樹さん 3月末撮影:玉本英子

「九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響」(発行:ころから)の著者、加藤直樹さん 3月末撮影:玉本英子

◆石原元都知事の三国人発言~「三国人」の言葉よりも、中身が問題だった

加藤:
もともと関東大震災時の朝鮮人虐殺に関心を持ったのは2000年の石原元都知事の三国人発言(※)の時でした。それまで僕は、教科書に書いてあることぐらいしか知らなかったんです。

あのとき、石原氏は「不法入国した三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している」「大きな災害時には大きな騒じょう事件すら予想される」「(災害時 には)治安の維持も自衛隊の大きな目的として遂行していただきたい」と発言しました。その時、これは相当まずいことを言っているぞ、と思ったんです。

それで、外国人が災害時に暴動を起こしたことなんて本当にあるのかなと思い、いろいろ調べてみました。直近の30年間にあった世界の大地震の記事 を、当時の新聞にさかのぼって調べてみましたが、外国人が地震に乗じて暴動を起こした例なんてひとつもありませんでした。外国人に限らず、軍隊が出動しな きゃ鎮圧できないほどの騒ぎ自体も、日本と比較する意味がある国では起きてなかった。

その時に、姜徳相(カン・ドクサン)の『関東大震災と朝鮮人』(中公新書)をはじめて読んだんです。そこには、ヒステリックになった自警団が人を殺しました、というような単純な事件ではなくて、行政が事態を煽ったという事実が書かれてあった。

「三国人」発言が出た当時、その言葉が差別的だというので騒がれていたけど、もっと問題なのは「中身」だと感じました。ですから、関東大震災のことをちゃんと調べなきゃいけないと思ったのです。

それで、2003年、9月に両国の横網町公園で、関東大震災で亡くなった方たちの法要があるというので、見に行きました。会場はおじいさんやおばあさんでぎっしりでした。あの時は、関東大震災80周年でした。
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