2014年3月末にオランダハーグで開かれた核セキュリティサミットで、日本は米国の要求に応じ、高濃縮ウランと分離プルトニウム331キログラムを返還 することに合意した。日本は、44トンのプルトニウムを保有しているが、なぜアメリカはわずか331キログラムのプルトニウムの返還にこだわったのか。ア メリカの思惑について京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん

◇核拡散と核武装への懸念

ラジオフォーラム(以下R):まず、日本がアメリカに 高濃縮ウランとプルトニウムを返還するというのは、どういうことなのでしょうか。

小出:基本的に高濃縮ウランとかプルトニウムという物質は原爆の材料なのです。例えば、私が勤める京都大学原子 炉実験所にも原子炉がありまして、1964年に臨界状態に達しました。 つまり、ウランの核分裂の連鎖反応が始められる状態になったのです。 その原子炉を作って京都大学に提供してくれたのは米国です。

そして、原子炉を提供する時に、その原子炉の燃料である高濃縮ウランも一緒に提供してくれました。ですから、京都大学原子炉実験所でも原爆材料であ る高濃縮ウランを使って長年、運転をしてきたのですが、米国はある時に気がつきました。「こうやって高濃縮ウランやプルトニウムという物質を海外に出して しまうと、それがいつか原爆になってしまう危険性があるのではないか」と。
京都大学原子炉実験所の場合は確か1980年代の初めだったと思いますが、米国はこれ以降、もう高濃縮ウランを提供してくれなくなりました。

それまでに米国から提供を受けていた高濃縮ウランが、様々な経緯を経て、京都大学原子炉実験所にはありました。それをとにかく使うことで京都大学原子炉実験所の原子炉は長年、動いてきたのですが、10年近く前にとうとうそうした燃料も尽きてしまったのです。

それで、どうやって稼働させていくかという話になり、原子炉を少し改造して、今は中濃縮ウランというものを使ってようやく原子炉を動かしています。中濃縮ウランは原爆にはならないものです。

つまり、米国としては原爆材料となる高濃縮ウランやプルトニウムを他国に渡したくない、一度渡してしまったものは何とかして取り返そうとしているのです。

R:アメリカは日本の核武装を懸念しているということでしょうか。

小出:日本の場合には、日本が米国の属国である限りはまあいいだろうと言って、これまではお目こぼしをしてきてくれたのだと思います。しかし、最近の国際情勢の動き、特に安倍さんの動きを見ていて米国が少し牽制をしなければいけないと気がついたのだろうと私は思います。

R:日本は国内に10トン、再処理のため海外に預けているものも含めると44トンものプルトニウムを保有してい ますが、アメリカが返還を求めているのはそのわずか1パーセントにすぎない331キログラムです。これだけを返すよう求めているということは、他のものは もともと日本でつくられたということですか。

小出:はい。44トンというのは、日本が原子力発電所を運転して自国でつくり出したものなので、基本的には米国 のものではないのです。しかし、日本の場合には日米原子力協定というものがあり、全ての核燃料物質は米国の規制の下にありますので、場合によってはそれも 米国に渡せというような話になるかもしれません。

もっとも、日本が保有している44トンのプルトニウムは、核分裂性のプルトニウムが約70パーセントしか入っておらず、高性能な原爆はつくれないと いうプルトニウムです。一方、今回、米国が返せと言ってきた331キログラムのものは、 高性能な原爆がつくれるプルトニウムなのです。ですから、米国としては日本に渡しておくよりは、もう使い道がないなら返させた方がいいと判断したのだと思 います。

R:これは、日本がこのまま独自に核開発に進むかもしれない。あるいは、日本からこの核物質が漏れ出してしまうかもしれないということを憂慮してのことなのでしょうか。

小出:はい。米国はまさにその2つの点を危惧していると思います。1つは、安倍政権がこのまま放っておくと核武装の方に行ってしまいかねないという危惧です。もう1つは、日本にプルトニウムを置いておくと他の誰かに盗み出される危険が大きいという判断です。

R:誰かに盗まれるとはどういうことですか。

小出:米国の場合には、原子力発電所も含めてプルトニウム等の核物質は厳重に軍が管理しています。原子力発電所 への外部からのテロ、あるいはサボタージュということに関しても軍がきちんと管理をしているわけです。日本の場合には軍が関与していないわけで、米国から 見ると日本に置いておくと危ないという判断は昔からありました。

R:なるほど。もう一方で、先ほどお尋ねしたように、日本は、アメリカへの返還に合意した331キロのプルトニ ウム以外にも、プルトニウムを44トンも保有しており、そのうち10トンが日本国内にあるということです。ただ、質の高い原爆をつくれるものではないとい うことなのですけども、この残りの44トン、これに対しては、アメリカは放っておいてもいいという判断なのですか。

小出:これまでは日本は米国の属国だからまあいいだろうと判断していたのだと私は思います。ただし、あまりにも 大量ですので、今後米国に引き渡せという話が出てくるかもしれないと思います。現在、イギリスにある分はイギリスが引き取ってもいいというようなことをつ い先日も言い出しましたしね。
日本は使い道のないプルトニウムは持たないという国際公約をさせられています。実質的に使い道がありませんから、場合によってはイギリスに渡す、あるいは米国に渡すということも起こりうるかもしれません。

「小出裕章さんに聞く 原発問題」まとめ

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