六番町駅の地上にある「排気口」。ここでもアスベストが検出された(2013年12月撮影・井部正之)

六番町駅の地上にある「排気口」。ここでもアスベストが検出された(2013年12月撮影・井部正之)

 

◆空気は機械室から改札へ 説明されない曝露の実態

2013年12月中旬に名古屋市の地下鉄・六番町駅で起きたアスベスト飛散事故は、地下鉄駅という閉鎖空間における、「超」高濃度の 事故だった。行政は迅速に対応したと発表したが、実際にはさまざまな問題が生じていた。新聞やテレビが伝えない飛散事故の実態を改めて検証する。(井部正 之)

前回、名古屋市の地下鉄・六番町駅で昨年12月中旬に起こったアスベスト飛散事故は、大手メディアの報道のように、基準の71倍などという生やさしい濃度ではなく、通常の5000倍以上、住宅地の最大値と比べても900倍近くというとんでもない事故だと指摘した。

この基準をめぐる話には、ほかにもさまざまな問題があるのだが、そうした細かな話は後に回すとして、現場の状況に話を戻そう。

事故発生当時の名古屋市の発表は、「機械室前コンコースのアスベスト繊維数濃度が(1リットルあたり)710本と判明」したため、保健所が「直ちに 工事施工者に対して工事の停止と原因究明及び改善対策を実施するよう文書で指導し、工事施工者は直ちに工事を停止」した。また、市交通局は「機械室の空気 がコンコースに流出しないように機械室扉の目張り」し、「機械室付近への立ち入りを制限」したとの内容だ。

この間の報道はこうした発表内容に「アスベストが飛散して利用客が吸引したおそれがある」「現時点で健康への影響は分からない」との市側の説明を付け加えた程度だ。

報道を見る限り、一見、市によってきちんと対応されているよう受け取れる。だが、実際にはそれとはほど遠い状況があった。

これらの報道はとりわけ大きく間違っているわけではないが、重要な情報がいくつも抜け落ちている。

まず十分説明されていないことの1つに、今回の除去工事からのアスベスト漏えい事故による、駅利用者らの曝露状況がある。

アスベスト漏えい事故の原因とみられているのは、駅構内にある機械室のアスベスト除去工事だ。機械室の天井と壁に吹き付けられた青石綿の除去工事が 12月12日から始まり、市環境局は同日、事業者に通告のうえで機械室前の測定をした。その結果、すでに述べたように、空気1リットルあたり710本とい う高濃度の青石綿が検出された。

高濃度のアスベストが検出された「機械室前コンコース」とは機械室前の通路だ。検出地点から5メートル先にはエレベーターがあり、そのすぐ先はホー ムにつながるエスカレーターと階段、さらに先は改札だ。つまり一般の地下鉄利用者も通る場所で高濃度のアスベストが検出されたのである。これが利用客がア スベストを吸引したおそれがあると報じられた理由だ。

現地を訪れて駅員に話を聞いたところ、「空気の流れはだいたい機械室からこっち(改札)です」と話す。実際に空気の流れは機械室から改札に向かって いると感じられた。駅員の証言が事実なら、機械室から漏えいした高濃度のアスベストが改札に向かって流れ、駅利用者や駅員はそれを吸ったはずだ。
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