現在、サマルさん一家は、治安の安全なクルド自治区で親戚の家に身を寄せている。子ども8人を含む20人が2つの部屋に暮らす。避難民キャンプとは違い、都市避難民には、食糧などの援助を受ける機会はほとんどないという。

モスルでは、宗教施設の破壊も深刻だ。7月下旬には、市中心地にある、聖書やコーランで知られる「預言者ヨナ」の墓が「イスラム国」によって爆破された。

「キリスト教徒は米軍の協力者といわれ、たくさんの信徒が武装勢力に殺された。家や財産すべてを奪われた。なぜここまで迫害を受けないといけないのか...」
サマルさんは嘆く。

今、モスルのキリスト教徒の家々の壁には、「イスラム国」メンバーによって、キリスト教徒を示すナサラの文字が目印として記されている。イスラム教 徒の隣人からの電話では、サマルさんの家の壁には「イスラム国のための家」とスプレーで描かれ、今後はイスラム国の関係者が暮らすことになるようだとい う。

イラク戦争とフセイン政権崩壊からすでに10年以上が経ったが、キリスト教徒たちの受難はいまも続いている。
【玉本英子】

※イラクのキリスト教徒
イラク北部の都市モスル一帯はニネヴェとして聖書に名前が登場する古い街で、キリスト教徒のアッシリアンやカトリック系のケルダニアンらが暮らしてきた。 イラクでは国民全体の3~7パーセントにあたるキリスト教徒がバグダッドなど都市部を中心にいたが、イラク戦争後、イスラム過激勢力から標的にされると多 くが国外などへ避難、現在は半分以下になったといわれる。

<玉本英子のシリア報告><玉本英子のイラク報告>

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