◆ 日米地位協定の密約

その米軍の特権をより強固なものにするための日米密約のひとつに、「民事裁判権に関する密約」があります。

米軍機墜落事故や米兵犯罪などの被害者が損害賠償を求める民事裁判に、米軍側はアメリカの利益を害するような情報は証拠などのために提供しなくても よく、またそのような情報が公になりそうな場合は米軍人・軍属を証人として出頭させなくてもよい、という米軍に有利な秘密の取り決めです。

1952年7月に日米合同委員会で承認されました。しかし、日本政府はこの取り決めを公表しておらず、存在も認めていません。つまり秘密にしつづけているのです。

日米合同委員会とは、日本の外務省や法務省や防衛省などの高級官僚と在日米軍高官・駐日アメリカ大使館高官で構成され、日米地位協定の解釈や運用などについて定期的に協議する機関です。

筆者がこの密約の存在を知ったのは2009年です。

ある大学図書館の書庫で、『日米行政協定に伴う民事及び刑事特別法関係資料』という、最高裁判所事務総局が1952年9月に編集・発行した部外秘資料に、この密約を記した日米合同委員会の文書が載っているのを見つけたのです。

同資料は米軍がらみの事件・事故を裁く際の、裁判官用の参考資料集です。最高裁事務総局に問い合わせると、この部外秘資料を編集・発行した事実は認めましたが、問題の文書については、「古いことなのでわからない」と口を濁してばかりでした。

問題の文書の名は、「合同委員会第七回本会議に提出された一九五二年六月二一日附裁判権分科委員会勧告、裁判権分科委員会民事部会、日米行政協定の規定の実施上問題となる事項に関する件」です。
なお、日米行政協定とは日米地位協定の旧称です。

日米合同委員会の日本側代表は外務省北米局長で、同局には日米地位協定室もあります。筆者は2009年9月、外務省に対して情報公開法にもとづき、日米地位協定の民事裁判権に関する日米間の全ての合意文書の開示を請求しました。

その結果、「民事裁判管轄権に関する日米合同委員会合意関連文書」としてA4判9枚の文書が開示されましたが、最高裁の部外秘資料にある問題の文書は含まれていませんでした。

一方で、「合意に係る日米合同委員会議事録」という文書の存在が明示されていました。しかし、「公にすると米国との信頼関係を損なうおそれがある」との理由で不開示でした。

最高裁の部外秘資料に載っている問題の文書は、日米合同委員会における民事裁判権に関しての日本側の質問、アメリカ側の見解、一致した見解というかたちで合意・承認した内容が記されており、この「議事録」に含まれているはずです。

筆者は情報公開法に則り、不開示決定の取り消しを求め、異議申し立ての手続きをとりました。

~つづく~

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書籍 『検証・法治国家崩壊 ~砂川裁判と日米密約交渉』 (吉田敏浩)

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