東京電力は10月末、福島原発1号機の核燃料取り出し作業が当初の計画から大幅に遅れると発表した。作業計画の遅れはなぜ生じているのか、また、新たに策定するロードマップは実現可能なものなのか。京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さん

◆希望的観測「実現できる道理がない」

ラジオフォーラム(以下R):使用済み核燃料の貯蔵プールからの取り出しが2年、原子炉内で熔けた核燃料の取り 出しが5年ずれ込むという見通しのもと、中長期ロードマップを改訂する2015年春ぐらいまでに新たな計画を固めるということです。そもそも経験したこと のない作業の工程表など作れるものなのかという気もしますが。

小出:おっしゃる通りです。現在進行していることは人類が経験した初めてのことなのです。東京電力も国も、もと もと事故が起こらないと言ってきたわけで、大変楽観的な思惑の下に原子力というものを進めてきました。そして、事故が起きてからも、彼らは、なんとか楽観 的にいけないかと思いながら対処しようとしてきました。けれども、やはりことごとく失敗してきたわけです。今あるロードマップも、彼らがこうあって欲しい という楽観的な見通しの下に作られた計画であって、決して実現できるものではないのです。

R:今になって見直す理由として、具体的に遅れが生じている場所などがあるということでしょうか。

小出:これまで3年9か月が経ったわけですけれども、やればやるだけ困難が増えてくるということが、東京電力も国も身にしみて分かってきたと思います。
放射能汚染水そのものにしても、何の対処もできないまま、現在も海に漏れていってしまっているわけです。それを防ごうとして凍土壁というものをつくる計画 は一応あるわけですけれども、それすら全くうまくいきそうもないということで、これから本当にどうしていいのか分からないという状態になってしまっていま す。

R:核燃料の取り出しが5年ずれ込む見通しだということですが、要するに、どこにあるかも分からない、どうやっ て取り出せばいいかもわからないものを、5年遅らせただけで成し遂げられるのか疑問です。そういう計画を立てて銀行からお金を借りて、工事を回すというの は云わばフィクションですね。そのフィクションが回っている限りは、実は困らないので進めているということでしょうか。

小出:そうです。事故が起きてこのかた、こんな酷い事故を起こしているのに誰ひとり責任を取っていませんし、こ れからのロードマップが成功しなくても、誰も責任を取らないでしょう。そして、東京電力がお金がかかると言えば、国がそれを補助する。東京電力は倒産しな いし、原子力を作るために儲けてきたゼネコンはますます儲かるという構図になっているわけです。

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