◆ 情報隠蔽ではなく情報公開を進めるべき

しかし、外務省は答申を無視するかのように未だ開示決定の手続きを取っていません。

外務省の北米局日米地位協定室は筆者に対して、「アメリカ側と協議中なので、開示するかどうかまだ決定できない」と言い訳をするばかりです。

残念ながら審査会の答申には強制力がありません。しかし、情報公開制度の実施状況を把握する総務省の担当者は、「審査会制度の意義からして、答申は当然尊重すべきだ。これまで行政機関が答申に従わなかった例は極めて稀である」と指摘しています。

外務省の対応は、情報公開を進めて説明責任を果たし、行政の透明性を高めるという時代の趨勢に逆行しています。密約が明らかになるのを恐れて、情報隠蔽をしているとしか言いようがありません。

民主党政権(2009年~12年)では当初、「対等な日米関係」と「地位協定の改定の提起」を唱えましたが、実現できませんでした。

「情報公開の推進」も掲げ、情報公開法に「知る権利」を明記し、総理大臣が行政機関の長に対して審査会の答申に沿った開示を勧告できるようにするなどの同法改正案も閣議決定しましたが、国会でたなざらしのまま廃案となってしまいました。

そして、地位協定の改定や情報公開の推進に消極的な自民党政権が返り咲きました。官僚組織の秘密主義の体質は温存されたままです。外務省が前出の答申に従わない背景には、こうした政治情勢もあるのではないでしょうか。

安倍政権は立憲主義を無視して、集団的自衛権の行使容認の解釈改憲を強行しました。日米軍事同盟の強化一辺倒で、地位協定の運用も含む日米間の外交・軍事情報、在日米軍に関する情報をより秘匿する傾向も強まると見られます。

特定秘密保護法を強引に制定したのも、日米間で軍事機密などを秘匿する態勢を強化するためです。
このままでは、米軍優位の不平等な地位協定と密約に象徴される、対米従属の構造と軌を一にして、アメリカの世界戦略に組み込まれ、集団的自衛権行使容認の もと、イラク戦争のようなアメリカ主導の多国籍軍による武力行使に日本も加わる事態ともなりかねません。秘密保護の名のもと、政府に都合がいいように情報 隠蔽や情報操作もおこなわれるでしょう。

対米従属の構造を改め、民主主義社会にとって不可欠な情報公開を進めるためにも、外務省は審査会の答申に従って、早く文書開示をすべきです。

そして、情報隠蔽や情報操作につながる特定秘密保護法も廃止されなければなりません。

<<第19回へ | 「戦争の足音」一覧>

書籍 『検証・法治国家崩壊 ~砂川裁判と日米密約交渉』 (吉田敏浩)

★新着記事