◆イスラム国の自爆車両突っ込み、病院壊滅

まるで重機でひき潰していったかのように、粉々になったコンクリートの瓦礫が一面に広がっている。屋根が崩れ落ちた建物は、コバニ(アラブ名アイ ン・アル・アラブ)の中心部、アマル救急病院があった場所だ。取材の3週間前、イスラム国の自爆車両が突入し、爆破された。大量の火薬を使った爆弾車の炸 裂で地面に大きな穴があき、周囲の住宅や商店は跡形もなく吹き飛ばされた。この日、市内では数箇所で同時多発の自爆車両攻撃が起き、市民に多数の死傷者が 出た。

かつてコバニ中心部にあったアマル救急病院は、昨年11月、イスラム国の車両自爆攻撃の標的となり崩壊。周囲には崩れたコンクリートの瓦礫が残るのみだった。(アレッポ県コバニで12月下旬撮影・玉本英子)

かつてコバニ中心部にあったアマル救急病院は、昨年11月、イスラム国の車両自爆攻撃の標的となり崩壊。周囲には崩れたコンクリートの瓦礫が残るのみだった。(アレッポ県コバニで12月下旬撮影・玉本英子)

 

1年前、私は、この病院を取材した。当時、町の近郊はすでにイスラム国に包囲されていて、周辺の町や農村部から多くの住民が、治安がまだ保たれていたコバ ニに逃げ込んでいた。イスラム国と自由シリア軍が郊外で衝突を繰り返し、幹線道は寸断。医薬品も器具も届かなくなった。危険な地域を抜けて病院に辿りつく 急患や妊婦たち。医療スタッフは懸命に処置していた。

2014年9月、イスラム国はコバニ市内への大攻勢を開始、町の半分近くを制圧し、周辺住民など20万人がトルコへ脱出した。イスラム国は、人が集 まる場所を狙って砲撃や自爆攻撃を加える。なかでも病院が繰り返し標的にされる。以前、町にあった4つの病院は砲撃や自爆攻撃ですべて破壊された。このた め現在は治療施設を周囲からは見えない建物の地下に移し、場所も数週間ごとに移動しているという。

戦火のなか、コバニにとどまって医療活動を続ける医師たち。「簡易レントゲン機器やエコー(超音波診断装置)さえあれば、多くの命が救えますがそれもありません。消毒液や包帯さえ足りない状態です」と話すヒクメット・アハメット医師(43・左)。写真中央は筆者。(アレッポ県コバニで12月下旬撮影・アジアプレス)

戦火のなか、コバニにとどまって医療活動を続ける医師たち。「簡易レントゲン機器やエコー(超音波診断装置)さえあれば、多くの命が救えますがそれもありません。消毒液や包帯さえ足りない状態です」と話すヒクメット・アハメット医師(43・左)。写真中央は筆者。(アレッポ県コバニで12月下旬撮影・アジアプレス)

 

地下病院には、発電機が轟音をあげるなか、ひっきりなしに市民や戦闘員が運ばれてきていた。ほとんどが、イスラム国の砲弾片による負傷者だ。医師は消毒液 をふりかけ、破片を取り出し、傷を縫っていた。医薬品は、破壊された無人になった市内の薬局をまわってかき集めてきたものと、トルコの民間人道援助機関か らの支援品だという。薬品の箱もアラビア語やトルコ語が混在する。

ここでは応急処置はできても複雑な手術は無理で、その場合は、人道措置としてトルコ側に国境を開けてもらい、トルコ側の病院に搬送している。だが、 すべての負傷者が受け入れられるわけではない。クルド人戦闘員の負傷者の流入を警戒するトルコ当局は受け入れを渋り、手遅れになることもあるという。先月 には、負傷してトルコ国内に非合法に越境したクルド人戦闘員たちを治療をしていた施設が摘発されている。
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