◆ 国家総動員法により戦火の海で輸送に従事した船員たち

さて、前回で述べたように、仮に「戦争法案」が成立すれば、自衛隊による米軍など外国軍隊への「兵站」支援や、米軍などとの共同作戦すなわち戦闘に際し て、輸送、装備の修理・整備、通信機器の設置・調整、物資の調達などの面で、幅広い民間企業のサポートが必要になってきます。

そうなると、自衛隊員の戦死のリスクが高まるのと同じように、自衛隊や米軍などへの「兵站」支援に業務を通じて組み込まれる民間企業の労働者が、戦争に巻き込まれて死傷するリスクも高まることになるでしょう。

この問題は、周辺事態法や武力攻撃事態法や米軍行動円滑化法などの有事法制が制定されたときから非常に懸念されていました。

そのため、船員、航空機乗務員、鉄道員、トラック運転手、港湾荷役作業員などの仕事に従事する労働者からなる様々な労働組合は、周辺事態法や武力攻撃事態法や米軍行動円滑化法などの有事法制に一貫して反対してきました。

「兵站」支援に関係する業務を命じられた労働者が、戦争やテロに巻き込まれる危険性が高まるとともに、意に反して戦争協力・戦争加担を強いられることになるからです。

そして、今回の「戦争法案」に対しても危機感を強め、反対の姿勢をとっています。

たとえば船員の場合、かつてのアジア・太平洋戦争のときと同じように兵員や軍需物資の輸送業務を命じられることが想定されます。

アジア・太平洋戦争では、国家総動員法により船員が客船や貨物船など船ごと強制的に徴用され、戦火の海で輸送に従事し、船が撃沈されて多くの戦没船員が出ました。

その数は6万人を超えています。

だから、船員の労組である全日本海員組合は、「船員徴用で多くの犠牲者が出た戦禍を繰り返してはいけない」として、周辺事態法や武力攻撃事態法や米軍行動円滑化法などの有事法制に強く反対してきたのです。

戦争中に徴用されて海軍御用船(海軍に徴用された民間の船)の興津〔おきつ〕丸に乗り組み、西太平洋で輸送任務中に船が撃沈され、九死に一生を得た元航海士の真田良〔さなだまこと〕さんに、筆者は以前、話を聞いたことがあります。

「戦争ではね、前線も後方もない。輸送こそが狙われるんですよ。興津丸沈没の、あの凄惨な光景を思い出すと涙が出てきますね......。私らは子 どもの時から、お国のために死ねと教え込まれて、船で軍隊や武器を運ばされましたが、戦後は自分の生き方は自分で選べる人間的な時代に変わったわけでしょ う。だから、船乗りは絶対に軍隊や武器を運んではなりませんね。私は死にはぐれて年老いましたが、後輩たちには絶対に同じような目にはあわないでほしい、 と祈る気持ちでいっぱいです」
そう真田さんは、時に沈痛な表情になりながら語ってくれました。 続きを読む>>

安倍政権の「戦争法案」を考える(2) へ | 「戦争の足音」一覧

書籍 『検証・法治国家崩壊 ~砂川裁判と日米密約交渉』 (吉田敏浩)

★新着記事