石綿被害について国は責任回避のために嘘と隠ぺいの主張を繰り返してきたが、2014年10月、大阪・泉南地域のアスベスト被害者やその家族らが国を訴え た「泉南アスベスト国賠訴訟」で、最高裁は国の責任を断罪して終結した。第17回は「アスベスト被害の原点」とされるこの訴訟の最高裁判決後に残された問 題について考察する。(井部正之)

大阪・泉南訴訟の最高裁判決の日、最高裁庁舎では耐震改修工事にともなうアスベスト除去工事が実施中だった。官公庁の工事においてもアスベスト飛散事故が頻発している(2014年10月撮影・井部正之)

大阪・泉南訴訟の最高裁判決の日、最高裁庁舎では耐震改修工事にともなうアスベスト除去工事が実施中だった。官公庁の工事においてもアスベスト飛散事故が頻発している(2014年10月撮影・井部正之)

◆アスベスト被害の現状を深く見つめてほしい

国の責任を狭めた「政治的な判決」といわれるこの最高裁判決だが、「人命より産業優先」との考え方は最高裁ではっきり否定された。その意義は大きい。その影響について、泉南訴訟で原告の弁護をした「大阪アスベスト弁護団」の村松昭夫弁護士はこう説明する。
「直接労働者を雇用していない国に対しても、技術の進歩や最新の医学的知見に合わせてできる限り速やかに法改正をするよう求めて最高裁で責任が確定した。ということは労働者を雇う使用者である企業の責任はもっと重い。今後より厳しく企業の責任は問われることになる」

もともと「使用者」である企業は雇用する労働者の健康を守る「安全配慮義務」を負う。
これに対して国は規制をつくっているにすぎず、その責任の範囲は間接的で、直接労働者を雇用している企業には及ばないという。
だが、今回最高裁は国に対しても厳しく判じた。それは今後の訴訟において、直接雇用する企業の責任がより厳しくなるとの見方だ。

実は1977年に日本で初めてアスベスト被害に対する損害賠償を求めて企業や国を訴えた長野石綿じん肺訴訟以降、ほとんどの訴訟で企業側が敗訴するか和解に応じざるを得ない状況が続いている。
「アスベスト訴訟で企業はその時々の規制に従ってきたと常に主張しますが、軒並み否定されて、企業に厳しい判決が続いています。これは下請けに対する元請け企業の責任でも同様です」(村松弁護士)

それは直接雇用していない、周辺住民などの被害者に対しても同様だ。吹き付けアスベストが使用された近鉄高架下の建物で文具店を営んでいた男性が中皮腫を発生したのは建物所有者の近鉄側に責任があるとして訴えた裁判でも2014年2月に被告の近鉄側は敗訴した。

また兵庫県尼崎市のクボタ旧工場周辺で中皮腫を発症した住民が同社や国を訴えた訴訟でも、工場から半径2km以上にわたると指摘される同工場周辺の 被害に対し、わずか300メートルまでときわめて限定的ではあるが、周辺住民の被害を大阪高裁は認め、クボタに賠償を命じた。今年2月に最高裁は被害住民 の遺族とクボタ双方の上告を棄却した。これによって大阪高裁が命じた、住民1人に対するクボタの賠償責任が確定、国の責任は否定した。
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