北朝鮮では、国家の最高指導者を除くすべての人々に課せられた義務がある。「生活総和」と「政治学習」だ。生活総和とは、簡単に言うと〝反省会〟のことだ。中学生は学校で、農民は協同農場で、労働者は職場で、少なくとも週一回集められて、自分の生活態度や職務の欠陥を告白・反省し、学友や同僚や隣人のそれを批判しなければならない。

だがその目的は、金日成氏や金正日氏、そして金正恩氏に対する忠誠の度合いをチェックすることにある。すべての北朝鮮の人たちをうんざりさせる生活総和はどのように行われているのだろうか?

以下は咸鏡北道の清津(チョンジン)市のさる企業所で行われた生活総和の現場の音声を録取したものである。取材したのは2006年と少し古いのだが、最近脱北した人に音声を聞いてもらったところ、「生活総和の内容とやり方は基本的に同じだ」ということであった。実際の音声では、幹部は口汚い言葉で怒鳴り散らしており、参加者に同情を禁じ得ない。やり取りの中に「職盟」とあるのは「朝鮮職業総同盟」のことで、労働党傘下の勤労者団体である。(取材 リ・ジュン/整理 石丸次郎)
生活総和

生活総和

生活総和で自己批判するために使う「生活総和手帳」の現物。ある地方の女性同盟員のもの。縦16センチ横12センチ。市場で販売されている。2015年に入手。(アジアプレス)

※ドアを開ける音、 椅子を引いて座る音がする。男性の声で何かが読み上げられ、次に、参加者と思しき女性の声が聞こえた。

参加者男性 討論に参加したいと思います。10大原則8条3項に関してやります。(雑音)……次のように指摘されています。「組織生活に自覚的に参加し、生活を正規化、規範化しなければなりません」。

自身の一週間の生活を総和してみると、組織に対する正しい観点と態度が不十分でした。その表れとして、私は今月に入って生活総和に一度も参加していないし、報告もせずに欠席するようなことがありました。組織生活をしっかりやっていないために、一日の勤務においても仕事をきちんとやらないようなことがありました。私は先週の間違いを正すために、まずは10大原則を深く学習し、組織生活に対する正しい観点と態度を持って、自分に課された仕事を、責任を持ってやっていくことを決意します。

幹部男性1 同志。以前はしっかりやっていたのに、外の仕事をしていて時間がないからかもしれないが、生活総和を抜けることが多すぎる。忙しくても生活総和には必ず参加するようにしなさい。出席簿で全て把握していますから。

幹部男性2 今何歳なのか? おい、今何歳だ? お前は組織生活を1~2年やった人間ではないか。生活総和があるのになぜ遅れてくるのか? 朝5時、6時に出て来てみると、海の砂を掘って持って行くのを防ぐために、毎朝来ている人もいるんだ(海砂泥棒警戒のことか?)。生活総和の時間も守れないことについてどう説明するつもりか?

おい、なぜ同盟生活総和の時間を守らないのか? お前だけ特別だとでも思っているのか? まともな生活をしないと棍棒で叩く(「厳しく対応する」の意)と言ったのになぜ聞かない? 何回も言ったのになぜ聞かないのだ? おい同志。なぜ時間を守らないのか? 私は昨日何と言ったか? なぜ遅れる? 君は職盟組織の人間ではないのか。
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