Q. でも、マレーシアではマレー・ムスリムという呼び方は余り聞かないようですが。
A.
 これはアジアのムスリムの特色の一つかも知れません。アジアはイスラームの発祥の地であるサウジアラビアのメッカから遠く離れています。そのため、マレーシアのムスリムは、アラビア語よりもマレー語を日常的に使い、自分たちの生誕地であるマレー半島《「マレーの地(Tanah Melayu)」》に愛着を抱いてその地に土着化したので、イスラーム色よりもマレー色の方がより強いと思われます。

また中国の最大のムスリム集団は「回教族」と呼ばれる「少数民族」です。彼らはムスリム人というよりも回教族としてのアイデンティティを強く持っています。彼らはかつて「回民(=ホイミン〈フイミン〉)」や「回回(=ホウェイホウェイ〈ホイホイ〉)」と呼ばれていました。つまりムスリムという呼称でした。それが中国という土地で時代を経るに従って「中国が祖国であると認識」が強まり、中国語を話し、その土地に土着化することで、「回教族」という認識が強まりました。

Q. ミャンマー国内では、8大主要民族にムスリムを加えて9大主要民族というのが現地の実情にあっているのですね。
A.
 実情に合致している、という点ではそういえます。ですが、繰り返しになりますが、「民族」という区分けは政治的に作られた枠組みです。

現在、一般的にいう「民族」という枠組みで人の集団を規定すると、そこに「権利」が発生してしますので、ここでいうムスリム人というのは、あくまでも信仰を一つにする人の集団という意味です。この辺りは政治的な問題が起こってくるので、「ぼかした表現」にしたほうがいいかもしれません。

それに、ミャンマーでは、上座仏教という戒律の厳しい信仰者が国民の約9割を占めているので、そこにイスラームという一般生活に極めて影響を及ぼす信仰を、宗教=民族とするのは難しいのです。

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