イスラームを排斥する運動を展開する「マバタ」のウィラトゥ僧正の宿坊には、ムスリムによって殺害されたとされる仏教徒たちの遺体の写真が大きく展示されていた。(撮影:宇田有三)

イスラームを排斥する運動を展開する「マバタ」のウィラトゥ僧正の宿坊には、ムスリムによって殺害されたとされる仏教徒たちの遺体の写真が大きく展示されていた。(撮影:宇田有三)

<特別連載>ミャンマーのロヒンギャ問題(1)へ

Q. 「786」といい、ウィラトゥ僧正のことといい、ミャンマー国内での仏教徒とムスリムの関係についてはまり知られていないのですね。
A. 
そうですね。「ロヒンギャ問題」を報じる国内外のメディアが、ミャンマー国内のムスリムがスンナ派、シーア派のどちらが多数であるのかということさえ知らないこともあります(ミャンマーでは、スンニ派が多数派)。

それにミャンマー国内では、イスラーム社会で顕著なスンナ派とシーア派の深刻な対立は見られません。ミャンマーにおけるムスリムの実態がどのようなものなのか、国内外には正確に伝わっているとは言い難いです。

Q. ムスリム人口は、ミャンマーの総人口 5100万人 のうち人口比で4~5%と発表されていますが、実際はどうですか?
A.
 私の個人的な体験と印象では、ムスリムの人口は5%~10%ぐらいなるのではないでしょうか。ムスリムの人びとは経済的な結びつきが強く、軍政下で経済的に疲弊した生活を送っていたムスリム以外の人びとから(多くは仏教徒から)やっかみの対象になったという感じも受けました。だからこそ、ムスリムの存在を小さくしておきたかったのかも知れません。

私の経験から人びとの立ち位置を、信仰をベースに考えてみると、次のようになると思います。

ミャンマー族仏教徒 > 少数派民族仏教徒 >ミャンマー族キリスト教徒 >中国系・インド系仏教徒、少数派民族キリスト教徒 > 中国系・インド系キリスト教徒 >ミャンマー・ムスリム > インド・パキスタン系ムスリム、パンディー・ムスリム、カマンムスリム、パシュー・ムスリム > ロヒンギャ・ムスリム

国籍のない(剥奪された)ロヒンギャ・ムスリムがもっとも虐げられており、底辺に追いやられています。

Q. 人口比からすると絶対的に仏教徒の方が多いのに、ムスリムに対してそれほど敏感になる必要がないと思うのですが、何か理由があるのですか?
A.
 仏教徒が多すぎることが、かえってムスリムに対する悪い噂(強盗・レイプなど)を拡大させることになり、誤った情報が広がってしまいました。単なる噂話が、恐怖政治を敷いていたミャンマー軍事政権下で人びとの疑心暗鬼を背景に、信憑性を持ってしまいました。これも長期の軍政の影響がもたらしたものです。

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