Q. では、どのような解決方法があるのですか?
A. 1982年の国籍法を変えるためには、NLD党による強力な政治的なリーダーシップが必要だと思います。その際、この問題は軍政下で引き起こされてきた人道問題、人権問題であるということをメディアを通じて、あるいは教育を通して同時進行で進める必要があるといえます。

◆まとめ◆
◎ビルマ軍事政権は、英国(と日本)による植民地支配に対して根深いルサンチマンがある。軍政はそこで、他国に支配されることのない、上座仏教を基盤
とする強力な統一国家が必要を必要とした。その国家統一のために、軍政は少数派の存在を抑え込んできた。軍政は人びとに恐怖を植え付け、住民の間に不信感を増幅させ、正確な情報を隠してきた。その結果、ロヒンギャ・ムスリムへの迫害が広がった。国際的に見ると、ロヒンギャ・ムスリムの被害の大きさは、民主化勢力や少数民族の人びとの被害報告の影に隠れてきた。

◎民族は政治問題として生まれてきたのだから、政治問題として解決は可能である。ロヒンギャ問題がこじれた最大の理由は、軍政下で1982年に制定された国籍法をどのように変えていくのか、新政権に注目する必要がある。

◎ロヒンギャの人びとのアイデンティティ
ロヒンギャの人びとのほとんどが、ロヒンギャ民族やロヒンギャ人としてのアイデンティティを認めて欲しいというのではなく、ムスリムとして平和的に生活したいというのを最優先としている。

◎ミャンマー族とラカイン族の歴史的な確執をミャンマー社会はどのように乗り越えていくのか。

◎国内外のメディアは、一部の過激な仏教徒やムスリムのプロパガンダや活動排し、負のイメージで対立を煽る風潮を抑えながら、事実をどのように冷静に伝えていくのか

◎国内外のラカイン人やロヒンギャは、それぞれの立場で主張したいことがあるだろう。そこで、対立を乗り越えて、何を優先させるべきか。それは、最も差別の被害を受けている現地のロヒンギャの声を一番大きく反映させる政策を決め、行動を起こすことであろう。(了)
<【特別連載】ミャンマーのロヒンギャ問題>記事一覧

宇田有三(うだ・ゆうぞう) フリーランス・フォトジャーナリスト
1963年神戸市生まれ。1992年中米の紛争地エルサルバドルの取材を皮切りに取材活動を開始。東南アジアや中米諸国を中心に、軍事政権下の人びとの暮らし・先住民族・ 世界の貧困などの取材を続ける。http://www.uzo.net
著書・写真集に 『観光コースでないミャンマー(ビルマ)』
『Peoples in the Winds of Change ビルマ 変化に生きる人びと』など。

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