永嶋靖久弁護士 (撮影 新聞うずみ火)

永嶋靖久弁護士 (撮影 新聞うずみ火)

この秋の臨時国会で法案提出が見送られた組織犯罪処罰法改正案(共謀罪法)。表現の自由を侵害し、監視社会を招く恐れがあるとして、これまで3度にわたり廃案となった悪名高い法案だが、安倍政権はテロ対策の名のもとに、その成立を試みようとしている。共謀罪法案の問題点と社会への影響を、治安立法に詳しい永嶋靖久弁護士に訊いた。(新聞うずみ火/矢野宏)

◆罪刑法定主義に反する

共謀罪のどこが問題なのか。永嶋さんは「刑法の基本原則を否定すること」と指摘する。

「犯罪行為は、何らかの犯罪行為を実行した場合に処罰される。殺人なら人が死ぬ、窃盗なら物を盗むという結果が起きて処罰される。刑法はこうした『既遂』処罰を原則としています。だが、例外として、殺人とか強盗などの重大な犯罪については『未遂』であっても処罰されます。ピストルを向けて撃ったけれど相手が死ななかったとか、当たらなかった――などです」

あくまでも例外的な処罰であるはずの「未遂」。その前段階を「予備」といい、さらに例外的な処罰である。現行刑法では、「内乱」 (クーデター)や「外患(がいかん)」(外国と通じ日本国に対しての武力行使)、「私戦」(外国に対して個人的な戦闘行為) のほか、「建造物放火」「通貨偽造」「殺人」「身代金誘拐」「強盗」の重大な犯罪に限って規定されている。

「殺人でいえば、ピストルを買いに行くとか、包丁を買いに行くというケースで、特に重大な犯罪に限り、犯罪の実行に着手する前の 準備行為が処罰されます。共謀罪は、その予備の前の段階で『相談したら処罰する』というもの。既遂行為を処罰する刑法の基本原則を否定するものです」

しかも、共謀罪の対象犯罪が拡大しているという。

「共謀罪が成立する対象は『長期4年以上の犯罪』。今回の法案も同じです。長期とは懲役の幅のことで、重い方の懲役の幅が4年以上なら共謀罪が成立するということです。その数は10年前で619あり、今では700近いと言われています。しかも、厳罰化で増えこそすれ、減ることはありません」

例外である「予備」よりさらに前の段階にもかかわらず、これほど広い範囲に適用させるのは矛盾があるのではないか。永嶋さんは「罪刑法定主義に違反しているし、憲法違反という声もあります」と述べる。
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