金正恩政権による核・弾道ロケット発射実験に対して、国連安全保障理事会が3月2日に対北朝鮮制裁決議「2270」を採択して7カ月になる。北朝鮮国内の物価等の動向調査から、経済制裁の影響についてあらためて考察した。(石丸次郎/ カン・ジウォン)
<北朝鮮内部>経済制裁は効いているか? 記事一覧

平壌中心部の牡丹(モラン)市場の食品売り場。値札は朝鮮ウォンだが、米ドルや中国元、ユーロ、日本円が歓迎される。働く女性たちは店員ではなく、幅80センチの売り場の経営者だ。2011年7月撮影ク・グァンホ(アジアプレス)

 

北朝鮮は、3月に決議された国連制裁「2270」を無視して9月9日に5度目の核実験を実施。現在、新たに強力な制裁決議を安保理で協議していると言われるが、既に核実験から50日以上が経過している。米国と中露の折り合いがつかないためだが、いつ、どのような決議が採択されるのか不透明な状態にある。焦点になっているポイントの一つが北朝鮮の石炭輸出規制だと伝えられている。石炭は北朝鮮の貿易輸出額の約40パーセントを占める稼ぎ頭だ。すなわち、核・ミサイル開発に関するヒト・モノ・カネの遮断のうち、開発資金の流入に打撃を与えたいということだ。

さて、北朝鮮の国内の市場動向について報告する。前回も書いたとおり、筆者が市場の動向でもっとも注目しているのは、中国元の実勢レートの動きである。

北朝鮮は公的には、1米ドル=約100ウォンの交換レートを設定しているが、このレートで交換する人は誰もおらず、不安定で価値の低い朝鮮ウォンと米ドル、日本円、ユーロ、中国元を交換する実勢レートが、現実の市場取引では採用されている。

2000年代に入って市場経済が拡大し、国内消費物資の多くを中国からの輸入に依存している北朝鮮では、酷いインフレが続いて下落を続けてきた朝鮮ウォンの信用は地に落ち、幹部から庶民まで、国民がなんらかの価値を計る際の指標は、基本的に米ドルになってしまっている。

平安南道で昨2010年12月に貼り出された「外貨使用者を厳罰に処す」という布告文。撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

 

例えば、1か月に必要な生活費はいくらかと考える時、「100米ドル札○枚」「1万円札○枚」と考えると答える。あるいは、庶民層の場合「四人家族で白米一月50キロ」という風に食糧で考える。朝鮮ウォンでいくら必要かとは、普通考えないのである。当局者ですらそうである。中国に近い北部地域では、これが中国元にとって代わられる。

人民が供出金を出せと言われる際も中国元で要求される。例えば、今年8月末に豆満江一帯を襲った洪水被害の復興支援。「幹部や金持ちは400元、500元。我われのような庶民は50元を出せと言われた」と両江道の取材協力者は伝えてきた。今の北朝鮮では、「基軸通貨」は朝鮮ウォンでなくなっていると考えた方がよい。

とはいえ、朝鮮ウォンが流通していないわけではない。当局は、市場での外貨の使用を取り締まっており、見つかると罰金を科される。商売人たちは隠れて外貨を使うが、相場に沿って朝鮮ウォンの値段も設定するため、歓迎されないものの高額でなければ朝鮮ウォンが拒否されるというわけではない。
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